弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年2月 9日

徴税権力──  国税庁の研究

社会

著者:落合博実、出版社:文藝春秋
 新潟地検の検事正が、妻と義母の遺産相続について東京の税務署から2億数千万円の申告漏れを指摘されたことについて税務署長宛に抗議文を送りつけたことがありました。
1996年1月のことです。新潟地方検察庁の封筒をつかい、検事正の肩書をつけての抗議文でした。
 自分は公益の代表者として調査を止めさせることが出来る。検察庁の立場から見ても不満が残る、と抗議文に書かれていました。驚くべき職権濫用です。検事正への処分が戒告処分にとどまったのが不思議でなりません。
 国税庁は一般職員に決してノルマを課していないといいます。しかし、国税局や税務署では、各年度ごとに増差総額をまとめていますから、一線の調査官には無言のプレッシャーになっている。
 国税庁は世論の動向にきわめて敏感な官庁である。中小企業には厳罰でのぞみながら、巨大企業はマルサの聖域となっている。マルサは一度も大企業に踏みこんだことがない。ところが、もし大企業をあげると、その効果は絶大なものがあります。ケタが違うからです。三菱商事がカリブ海のバハマにペーパーカンパニーをつくっている課税逃れを摘発されたとき、隠し所得はなんと110億円でした。
 大企業の海外取引に国税当局がちょっと目をつけると、次のとおりの税額が回収できたのです。ホンダ117億円、京セラ127億円、船井電機165億円、武田薬品570億円、ソニー324億円、マツダ76億円、三菱商事22億円、三井物産25億円。
 すごいものです。まだまだあることでしょう。これはほんの氷山の一角だと思います。
 大新聞などのマスコミのほか、創価学会にも申告漏れないし課税逃れがあると著者は指摘しています。ところが、公明党が政権与党になって、国税庁は方針を変え、甘い姿勢を示すようになったといいます。権力は国税よりも強し、なのです。困ったことです・・・。
 小泉純一郎も、地元の暴力団関係企業やゼネコンのために秘書が口利きをしたと厳しく糾弾されています。人生いろいろ、そんな言い逃れは許せません。
 国税庁が警察や検察をしのぐ日本最強の情報収集力を本当にもっているのかは大いに疑問です。でも、アル・カポネが捕まったのは脱税によるものでした。金丸信自民党副総裁も脱税による逮捕で失墜してしまいました。国税権力は今後も時の権力者にしっかり目を光らせてほしい、納税者の一人として願っています。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー