弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年1月30日

小泉官邸秘録

社会

著者:飯島 勲、出版社:日本経済新聞社
 小泉政治の自慢話が延々と書かれている本です。そこには弱者を冷酷に切り捨てていく政治についての反省がまったくなく、政治とはパワーバランスで動くゲームだというトーンで貫かれています。読んでいくうちに次第に腹が立つ本です。
 腹が立つくらいなら読まなきゃいいだろ。そう思う人もいるかもしれませんが、私は欺す側のテクニックと詐欺師集団の心理と構造に関心がありますので、読まないわけにはいきません。商品先物取引の欺しの手口については、その刑事・民事の証言調書をもとに本を書いたこともあります。
 小泉の劇場型政治に多くの日本人がまんまと欺されたことは明らかな事実です。小泉純一郎が首相になったときの支持率が92%、5年後に辞めたときでも63%という驚くべき高率をたもっていました。なんて日本人はお人好しで、欺されやすいのでしょうか。
 郵政民営化を争点とした総選挙のとき、小泉純一郎は、身近な郵便局がなくなることはありませんと断言していました。ところが民営化された郵政公社は特定郵便局の多くを廃止する方針をうち出しているのです。じいちゃん、ばあちゃんが歩いて通える身近な郵便局が廃止されたら、どんなに困ることでしょう。
 いったい政治は何のためにあるのか。政治家の役割は強い者をますます強くするためにあるのか。この本は、そんな根本的な疑問に真っ向からこたえようとしてはいません。
 小泉のメディア戦略は抜群の効果をあげました。著者は次のように語っています。
 総理の「ぶら下がり取材」というものがある。総理が官邸に戻ってきて、歩きながらマイクを向け総理のコメントを取るというもの。このぶら下がり取材のやり方を変えた。昼は主に新聞を念頭に置いたカメラなしのぶら下がり取材とし、夕方はテレビで映像が流れることを念頭に置いたカメラ入りのぶら下がり取材とした。一言でメディア対応といっても、メディアの特性、役割に応じてやる必要がある。
 小泉は、このテレビ向けのワンフレーズを決め手にしていました。この表面だけを見て、多くの日本人がコロッと欺されてしまったわけです。
 小泉内閣のメルマガには何億円もつぎこんだようです。百数十万人の読者がいたといいますから、怖いですね。いったい私のこのブログは何人に読まれているのでしょうか。
 小泉はマスコミの論説委員や編集委員を招いてじっくり懇談する機会をつくり、また、ラジオで毎月1日10分間、直接、国民に語りかけるという番組ももっていた。
 メディア操作によって小泉の虚像はどんどん大きくなっていったわけです。
 私も、小泉は二つだけはいいことをしたと高く評価しています。一つは、ハンセン病裁判で控訴を断念し、ハンセン病元患者に対して直接、首相とした公式に謝罪したことです。これはやはり英断です。もう一つは、とかくの評価はありますが、北朝鮮に乗りこみ金正日と会談して、拉致されていた人々を日本へ連れ帰ってきたことです。後者のほうはまだまだ拉致被害者が他にいるのは確実なので、解決ずみというわけではありませんが、ともかく大きな一歩(成果)をあげたと私は理解しています。
 小泉政治の5年間で、日本はガタガタにされてしまいました。歴史上の最悪首相ナンバーワンだと私は思います。勝ち組優先、負け組切り捨て、お年寄りや貧乏人に対して早く死ねとばかりに冷たく路上につき離し、トヨタやキャノンのような大企業が世界的に活躍できるようにしていきました。福井俊彦日銀総裁のように嘘つきで自分と身のまわりの大金持ちのことしか考えないような人々を優遇して、日本人の倫理感を地に墜ちさせてしまいました。
 著者には、そんな弱者いじめをしたという心の痛みはカケラもないようです。でも、そのうち足腰が立たなくたったとき、きっと後悔することでしょう。ただ、そのときにはもう手遅れなのですが・・・。
 安倍首相が7月の参院選は憲法改正の是非を争点とすると言っています。そのこと自体は大賛成です。ただ、憲法のどこを、なぜ変えようというのか、変えたらどうなるのか、本質的な点が国民によく分かるようになったうえで国民が選択できるようにすべきです。もっとも、これにはマスコミの責任も重大ですよね。私たち国民も、小泉とその亜流の政治家から何度も欺されないようにしたいものです。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー