弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年1月29日

子どもが見ている背中

社会

著者:野田正彰、出版社:岩波書店
 現代日本、とりわけ日本の教育行政に対する悲痛な叫びとも思える告発の書です。読みながら、思わず背中を伸ばし、居ずまいを正しました。著者の真摯な態度に対して心から敬意を表します。それにしても、日本の教育って、こんなにまで地に墜ちているのですね。
 教育基本法がついに改正(改悪というべきでしょうが・・・)されてしまいました。教育を国家が統制する。個人の伸びやかな個性を殺いでしまう日本の教育を助長する方向です。悲しいことです。
 それにしても、教師をこんなにも統制して、どうしようっていうんでしょうね。広島の民間校長の自殺を追跡した第2章を読んで、さすがの私も大いなるショックを受けてしまいました。
 その小学校では、教頭(51歳)が2002年5月10日、過労のため脳内出血で倒れました。次の後任の教頭(47歳)が2003年2月14日、心筋梗塞で倒れました。夜12時まで仕事をし、パーキングで仮眠をとって夜中の2時に帰宅し、朝5時には家を出るという生活をしていたそうです。
 そして校長です。2003年3月9日に勤務先の小学校で自殺しました。毎晩、夜10時、11時に家に帰る忙しさでした。精神科に通院するようになっていました。教育委員会に何をいっても、甘いと言われる。死ぬまで働けということだね、と家人にこぼしていました。
 民間出身の校長としてマスコミにも報道されていた人です。自らすすんで希望して校長になったとばかり思っていましたが、実はそうではなかったようです。31年間つとめた広島銀行から校長職に推薦されたのです。56歳の副支店長で、リストラの対象者だったのです。自宅から通勤できる、小規模の問題のない学校を希望していました。当然のことでしょう。経験がないわけですから。ところが車で90分かかる、大規模校を押しつけられてしまいました。学校文化がまったく分からないまま苛酷な教育現場に押しこまれたわけです。そして、早く成果を出せと駆り立てられ、必要な急速もとれず、治療も十分に受けられませんでした。これでは、自殺したというより、教育行政に殺されたとしか言いようがありません。
 京都の中学校の通知票が15頁もあり、評価項目が272項目にのぼることを知って、腰が抜けそうなほど驚いてしまいました。教師がそんなに1人1人の生徒を評価することができるのでしょうか。また、そんなに細かく評価する意味があるのでしょうか。
 教師たちが自律した人として考えることを侮蔑され、させられる教師になっているとき、生徒たちも同じ状況にある。まことにそのとおりだろうと私も思います。
 都立高校で「日の丸」への起立強制と「君が代」斉唱強制がなされていることについて、東京地裁は2006年9月21日、違憲判決を下しました。私もこの判決を支持します。愛国心の押しつけが逆効果であると同じです。「日の丸」も「君が代」も押しつけられて尊重する気になんか、とてもなれません。今、学校以外で「日の丸」を見ることはありません。「君が代」斉唱なんて、馬鹿馬鹿しくて、私は何十年もしたことがありません。なんで今どき、天皇の御代がずっと栄えてほしいなんて歌わせるのでしょう。冗談じゃありません。
 何ごとによらず押しつけが効果をあげることはないのです。もっと教師の自由にまかせたらよいのです。前にフィンランドの教育を紹介しましたが、生徒も教師も学校でのびのびと過ごし、落ちこぼれをなくす教育が、国全体のレベルアップにつながっているという現実を日本人も直視すべきです。

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