弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年1月24日

オール1の落ちこぼれ、教師になる

社会

著者:宮本延春、出版社:角川書店
 読んでいるうちに胸が熱くなり、勇気を与えてくれる感動の本です。乙武さんの本以来のことです。久しぶりに同じ思いを味わいました。人間の能力って、遅くなっても開花するというのは、本当のことなんですね。
 中学1年生のときにオール1。そして、中学校卒業時の成績表のコピーがついています。音楽と技術が2で、あとは見事にオール1です。そんな人が名古屋大学理学部に定時制高校から一回で合格したというのです。なんともすごい快挙です。心から拍手をしたくなりました。いえ、心の中で、何度も大きく手を叩いて拍手しました。
 著者の両親はラーメン屋でした。典型的ないじめられっ子だった著者は不登校をくり返し、昼間も暗い部屋に引きこもっていた。短気な父親が怒って、「どうせ勉強しないなら、教科書も何もいらんな」と言いながら、教科書からランドセルまですべてを目の前で火を付けて燃やしてしまった。著者は、それを見ても平然としていた。
 オール1の成績表を見て、父親は「学校に何しに行ってたんだ。この馬鹿者」と怒鳴った。あなたは正真正銘の馬鹿。ここに馬鹿証明書を発行する。そう言われている気持ちで、やっぱりそうだったんだと再認識した。こうなっては今さら何をしてもムダだと自分を見捨て、落ちこぼれの気持ちをますます強固にした。
 小学校でも中学校でも、数少ない友人以外のクラスメイトは、ほとんど心と体を傷つけるような存在だった。もち物を隠されたり、壊されたり、とつぜん殴られたり、蹴られて顔面がアザだらけになったり、足に画鋲を刺されてなかなか抜けなかったり、修学旅行の班をつくるときも仲間外れにされて、どこにも入れなかった。
 教室、廊下、トイレ、下駄箱、裏庭など、学校のありとあらゆるところでいじめられる日が続いた。
 中学2年のとき、あまりのひどさに親に相談した。親が学校にかけあうと、さらにチクったとして、いじめがエスカレートした。
 著者は実は、少林寺拳法に入り、初段になって、それなりに自信はあったのですが、つかうことはありませんでした。いじめを回避できるという見通しをもてなかったからです。
 16歳のとき母が病死し、18歳のとき父も病死してしまいました。
 そのあと、訓練校を経て、大工見習いとなります。そこで、素人バンドの一員として活動するようになりますが、まったく収入がなく、1ヶ月13円で暮らしたこともあるというのです。信じられません。パン屋もらったパンの耳だけで生活していたといいます。
 ところが、その後に出会いがありました。立派な社長や専務のいる小さな建設会社に入りました。少林寺拳法も続けて、2段となり、その道場で彼女と出会います。
 著者の人生の転機は、NHKスペシャルのアインシュタイン・ロマンという6本の番組をビデオで見たことにあります。なぜ、そうなるのか、物理を勉強したくなったのです。このとき、著者は23歳。九九も言えませんでした。英語も知っているのはbookのみ。それで、小学校3年生のドリルを買ってきて勉強を始めるのです。いやー、すごいですね。大変な勇気と決意です。そして、定時制高校に入りました。
 勤め先の会社は著者が定時制高校に通う便宜を図ってくれました。高校の先生たちは著者が本気で勉強する気があるのを知ると、補習授業までしてくれました。あとで、校長先生は、著者に大学にはいるために必要なら100万円出してやるとまで言ってくれました。人の出会いの素晴らしさを感じます。こんななかで頑張り、27歳で名古屋大学理学部に一発で合格したのです。
 今、著者は母校の豊川高校の数学の教師です。こんな先生に学ぶことのできる生徒は幸せだと思います。大勢の人に読んでほしい本です。

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