弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年1月22日

総理の品格

社会

著者:木村 貢、出版社:徳間書店
 官邸秘書官が見た歴代宰相の素顔というのがサブタイトルになっています。オビには、池田首相以来四代の総理に仕え、官邸の主と言われた宏池会本事務局長の歴史的証言、とあります。
 宮澤喜一元首相が推薦の言葉を寄せています。それによると、著者は、池田勇人に始まり、歴代の宏池会会長であった前尾繁三郎、大平正芳、鈴木善幸、宮澤喜一を黙々として全力で支えました。80歳となり、事務局長を辞めてから回想したものです。
 宮澤は人の言うことをまったく聞こうとしない。自分の方が頭がいいと思っていたから、当然のことだろうが・・・。
 同じように加藤紘一も人のアドバイスを聞くタイプではなかった。おれは一番頭がいい。いちばん出来るんだという自負が強かったから。だから、加藤にはいいアドバイザーがいなかった。同じ自信家といっても、宮澤と加藤とでは少しニュアンスが違う。加藤には、自分のほうからあえて近寄って行って人の話に耳を傾けるといった謙虚さが欠けている。
 大平正芳は、留守中に自分の家が火事で全焼したときにこう言った。
 これは祝融(しゅくゆう)だ。物事をきれいさっぱり一掃して新しいスタートをせよということだ。だから、これはおめでたい出来事なのだ。
 自分に言いきかせた言葉なのでしょうが、それにしてもすごい言葉ですよね。
 大平正芳は、かねてから心臓の具合が悪く、つねにニトログリセリンを持ち歩いていた。どうやら大平家の家系のようだ。兄も弟も心臓病で亡くなっている。
 鈴木善幸は初当選したときは社会党に所属していた。日米同盟には軍事同盟はふくまれていないとアメリカ帰りに記者へ明言したのは、そのリベラルなところから来ているもの。しかし、アメリカがそんな食言を放っておくはずはありません。大問題となりました。今では考えられないことです。世の中がこの点では悪い方向にすっかり変わっています。
 鈴木は総理の椅子に恋々としがみつくことはなかった。明治の男という感じだった。鈴木善幸は一番の聞き上手だった。加藤紘一は聞くのが下手だった。
 実は、この本を紹介しようと思ったのは、まことに政界はジェラシーの海だ、という著者の言葉を読んだからです。
 大平正芳が宏池会会長になると、小坂善太郎は抜けた。宏池会に河野洋平が入ってきたとき、加藤紘一は不安にかられた。加藤が宏池会会長になると河野洋平が出ていく。
 こんな具合で、政界の内情は政治家同士のジェラシーが渦巻いているというのです。なるほど、その視点で見たら、また違った政治分析ができて、面白いのでしょうね。
 それにしても福岡の古賀誠が今や宏池会の会長だなんて、どうなっているんでしょうね。銀座ホステス愛人とか暴力団との癒着とか、週刊誌でいろいろ書かれても、そんなことくらいでは足もとは揺らがないということなんでしょうね。政界の浄化は道遠しという感があります。

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