弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年1月16日

検証・国策逮捕

著者:東京新聞特別取材班、出版社:光文社

 サブ・タイトルは、経済検察はなぜ、いかに堀江・村上を葬ったのか、です。検察庁は日本の政治を部分的にではあれ、左右しようという意欲と自覚を持つ官庁なのでしょうか。結果的にそうなった、というのなら分かりますが、はじめから、それを意図しているとなると、果たして、その能力と資格があるのか、私などは眉につばをつけたくなります。それほど政治に敏感な人間集団だとは、とても思えませんし、そんなに能力にすぐれた人々がつくっている組織だとも思えないからです。
 ところで、日銀総裁の福井俊彦は日本人の大人のモラルが地に堕ちていることを如実に示す典型の男です。こんな人間が日本銀行のトップとして君臨している限り、日本の指導層に日本人のモラルがどうのこうの、近頃の若者のモラル低下は嘆かわしいなどと言う資格はないでしょう。
 福井俊彦は村上ファンドに個人として投資していた。それを本人は、あまり大した金額ではないとした。実際にはどうか。村上ファンドに投資したのは1000万円で、運用益は1473万円。既に242万円を分配金として受けとっている。6年で元本の2.47倍になっている。これを大した銀額ではないと堂々と言いつのるのだ。信じられない。
 福井俊彦夫婦の総資産は3億5000万円。給与は年3641万円。このほかに年金 778万円をもらう。つまり、年収4419万円だ。それからすると、1473万円の利益なんて、大したことない金額なのだろう。でも、日銀トップがそんな感覚で果たしていいのか。
 村上ファンドの関係で問題となったのは福井俊彦のほかにもう一人、オリックス会長の宮内義彦がいます。なんでも民活と称して、抜け目なく肥え太っている典型的な政商です。オリックスは、2001年から、村上ファンドへの投資窓口として資金集めを代行し、手数料を受けとっていた。村上とは常に密接な関係にあった。
 福井と宮内を国会に参考人として招致せよと野党が要求したとき、宮内は「民間同士の自由な契約関係であり、国会にはそぐわない気がする」と言い逃れました。日本の政財界トップにこんなに低いモラルしかないのですから、下が悪くなるのもあたりまえです。上のほうで大金持ちたちがカネにあかせて堂々としたい放題をし、マスコミがたたくのも腰くだけになって、いつのまにかウヤムヤになってしまうというパターンが続けば、カネこそすべてという風潮が日本にまん延するのは避けられません。教育基本法を改正したのはこんな連中なのです。彼らの卑しい品性が次世代を担う日本の子どもたちに押しつけられてしまうのが、本当に心配です。
 村上の弁護人の中心が則定衛本東京高検検事長だというのを知って、あーあ、またヤメ検かー・・・、とついため息が出てしまいました。いえ、検察官を退職して弁護士になった人全部をけなすつもりはまったくありません。私も、立派なヤメ検弁護士を何人も知っています。それでも、スキャンダルのために検事総長になり損ねたような人物が村上の弁護人になったというのを聞くと、なんだか割り切れない気がしてしまうのです。
 ホリエモン逮捕によって、東京証券取引所の売買システムがダウンし、全銘柄の取引停止という前代未聞の事態に陥った。これは検察にとっても想定外の出来事だった。堀江の保釈は3ヶ月後、保証金は3億円。堀江の六本木ヒルズの家賃は200万円。勾留中に「沈まぬ太陽」(山崎豊子)を読んで感動し、保釈されたあと御巣鷹山にのぼった。
 ライブドアの個人株主は22万人にまでふくれあがった。
 ライブドアに対する特捜部の内定捜査について、本書は政治的な糸や世論の風向きは関係なかったとしています。しかし、国策捜査でなくても狙い撃ちされた感は否めないとしています。その点は、私も同感です。出る杭は打たれるという感じです。あまりに派手にやると叩かれるというのが日本の風土なのでしょう・・・。

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