弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年1月12日

アメリカ監獄日記

著者:高平隆久、出版社:草思社

 前にアメリカの刑務所生活を体験した日本の若い女性の書いた本を紹介しました。今度の本は、日本人の中年男性が同棲していた若い日本人女性からレイプ犯として告訴され、拘置所で生活した体験を報告したものです。
 この本を読んで、アメリカという国は本当に怖い国だとつくづく思います。拘置所のなかで抹殺(リンチ)されることが現実にあり、その恐怖の下で生きていかなければならないのです。日本ではそんな話は聞きません。
 同棲していた若い女性とのあいだでレイプ罪が成立するかどうかについては、私にはもちろん分かりません。本人は無罪を主張していますが、結果としては司法取引に応じて有罪となり、日本へ送還されたのです。
 逮捕されて拘置所に入ってから、パブリックディフェンダー(公選弁護人)を頼むのですが、低い評価しかなされていません。パブリックディフェンダーの弁護士は役に立たないって有名だ、とされています。残念です。
 逮捕されて2週間あまりで、パブリックディフェンダーが4人交代した。著者は本当にいい加減なシステムだと怒っています。たしかに、こんなにコロコロ変わってしまうのでは、心細い限りですね。
 拘置所の住人の多くは前歯がない。これはフリーベースという、コカインに重曹を入れて熱したものを吸収し続けていると、歯ぐきがやられて歯が抜け落ちてしまうからだ。
 それほどアメリカでは薬物中毒者が多いということです。
 拘置所は体力勝負のところ。着いたらすぐ喧嘩になるかもしれないし、夜中に襲われるかもしれない。強そうに見える人間には、すぐにいろいろな人間が力試しに喧嘩を売って
くる。弱そうな人間は、すぐにボクシング大会と称して戦わされる。そして、それが見てる者の賭けの対象となる。勝った方も、生意気だと、ボスにやっつけられる。
 アジア人の集団のなかにヒスパニック系の人間を入れると、たちまちリンチが始まる。もちろん、逆も真なりだ。
 サウスサイダーとは、不法入国してきたヒスパニック(ほとんどがメキシカン)の親をもつ、アメリカ生まれのアメリカ国籍にヒスパニック系アメリカ人のこと。
 ジュートボールとは、人間の一日に必要なミネラルやビタミンが固められているボール状の食事。懲罰房に入れられたときの食事。
 拘置所の面会は土・日の午後1時から5時まで、3つあるトイレは夜中には1人ずつしか使えない。アメリカでは、にんじんとタイレノール(鎮痛剤)が、キリストと同じくらいに厚く信仰されている。
 部屋は不潔で、ねずみがすぐに捕まえられるし、クモにかまれることもある。シャワーも数が少ないので、気の弱い人間はとてもつかえない。
 いやあ、アメリカって、本当に大変な国ですね。勝ち組のアメリカ人は負け組のことなんて人間とも思っていないのでしょうね。だいいち、刑務所人口が何百万人(200万人と言われています)いても、選挙権がないのですから、無視できます。また、処罰を厳しくせよと叫ぶほうが票が集まるのですからね。ともかく、ぞっとする本でした。

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