弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年1月 9日

企業コンプライアンス

社会

著者:後藤啓二、出版社:文春新書
 このところ大企業の不祥事が相次いで明るみに出ました。これまで隠されてきたものが、一挙に表面化した感があります。勇気ある内部告発も働いたようです。
 ライブドア、三菱自動車、雪印乳業(中毒)、雪印食品(牛肉産地偽装)、西武鉄道(総会屋)、松下電器(石油温風機)、パロマ(瞬間湯沸かし器)、耐震強度偽装事件などなどです。
 公認会計士と監査法人がまったくのお飾りでしかないという実態がいくつも明るみに出ました。耐震強度偽装事件では、民間の確認検査機関に確認検査を行わせる今の制度は改めるべきだと著者は指摘しています。まったく同感です。「官から民へ」移行したら、とんでもないことになるという見本のようなものです。公認会計士と監査法人についても、それが純然たる営利法人である限り、エンロン事件のような大がかりの不正事件に加担することは避けられません。大企業から相対的に自立できる仕組みが根本的に必要だと思います。今のままでは、大企業の隠蔽工作の片棒をかつがされるだけの存在のような気がします。
 企業の不祥事は、昔の方がより悪質でより多かった。昔の不祥事は、トップの指示、あるいは企業風土により、全社一丸となって行われていた。
 バブル期には、銀行や証券業界は挙げて、正々堂々とコンプライアンス不在の不正をしていた。銀行では、「向こう傷を恐れるな」「すべての預金者を債務者にせよ」という指示がトップや本店から出されていた。証券会社は、個人客を「ごみ」と呼んでいた。預けているお金が億単位以下の客を「ごみ」と呼ぶのは今でも、そうだと思いますが・・・。
 社長はコンプライアンスと言っているが、他方で、利益を出せ、売上げを伸ばせとも相変わらず言っている。業績に連動した報酬体系をとり、結局は、とかくの噂があっても稼いでいる人、不適切な受注活動を行ってきた人が出世している現実があれば、コンプライアンスは建前だけに終わる。
 不祥事が発覚したときのトップの記者会見における失敗例が紹介されています。
 「わたしは寝ていないんだ」雪印乳業社長
 「なぜ上場したのか分からない」コクド会長
 「利益はたいした金額ではなく、巨額にもうかっている感じはしない」福井日銀総裁
(実は1000万円の投資で、運用益は1473万円あった。まんまと逃げ切りましたね)
 「知らなかった。愕然とした」三菱自動車社長
 「当時は関係する法律がなかったので、抵触しない」三菱地所常務
 そして、シンドラー社は、エレベーター圧死事件のあと責任者による記者会見を一貫して拒否し続けた。
 記者の質問に対しては、把握している事実については、社員・関係者のプライバシー、企業の営業秘密、本件と関係ない事項など、コメントしないことに合理性が認められるものを除いては、答えることが妥当だ。本来、答えることができる質問に対して、「ノーコメント」と答えるのは説明責任を放棄しているようにとられ、不誠実な印象を与えてしまう。その時点で本当に分からないことは、「分からない」と答えればよい。
 報道発表は一回で終えるのがベスト。そのためには、不祥事の事実関係と原因、関与した者の責任と処分、再発防止対策の3点について、一度に公表し、十分な説明を行い、マスコミからの質問に誠実に答え、それ以上の記者会見を行う必要が内容にするのが大切。
 公表すべき事項を小出しにしたり、マスコミの関心が高く、答えなければならないことを答えないままでは、いつまでも追求が続く。
 私も弁護士会の責任ある役職についたとき、会員の不祥事で2回、記者会見にのぞんだことがあります。テレビカメラがまわるなか、スポットライトを浴びつつ何人もの記者から厳しく容赦ない質問を受けて、冷や汗いっぱいかきながら答弁しました。誠実な答弁をこころがけたとまで言うことはできません。処分程度(量刑)を決める立場にいたわけではありませんでしたので、無責任と思われない程度に「分かりません」を連発しました。45分間もテレビカメラの前に坐らされました。大変な苦痛でしたが、私の方から一方的に立ち上がるのだけはしませんでした。逃げるところを、その背中が映されるという無様な映像が流れないよう、記者クラブの幹事が「終わりました」と声をかけ、テレビカメラが終了したのを確認して席を立ちました。これが3ヶ月ほどの間に続けて2度もあり、本当に良い社会勉強になりました。

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