弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年12月28日

反米大統領、チャベス

世界

著者:本間圭一、出版社:高文研
 ベネズエラというちいさな国が今、世界の注目を集めています。アメリカが今もっとも嫌っていながら、倒すことのできない大統領がいるからです。
 ベネズエラの石油輸出量は世界5位、石油埋蔵量は世界6位。今のままの石油生産を 300年も維持できる。
 中南米の国々は、いま大きく左傾化している。ブラジルのルラ大統領アルゼンチンにキルチネル大統領、ウルグアイのバスケス大統領、ボリビアのモラレス大統領、そしてニカラグアのオルテガ大統領など。
 先日、キューバの革命記念日にフランスの有名な俳優であるド・パルデューが現地に駆けつけたという新聞記事を読んで驚きました。キューバはアメリカからは依然として敵視されていても、今や孤立なんかしていないのですね。
 ベネズエラの人口で、先住民は数パーセントしかいないが、混血は7割近い。チャベスも、父親は先住民の血を引いた混血。
 多くの中南米の国々の軍人は、アメリカにある軍人養成学校で学んでいる。その出身者が60年代から70年代にかけて左翼政権を倒し、軍政を樹立した。ところが、ベネズエラは、このアメリカの軍人養成学校「米州学校」で学んでいない。
 チャベスは37歳のとき、中佐として軍事反乱を起こし、失敗した。そのとき、テレビの前で90秒間、語ることができた。
 同士よ、残念ながら、今は、我々が目ざす目的は達せられなかった
 私は、国家とみなさんの前で、今回のボリバル軍事行動の責任をとる。
 この言葉によって、無名の男が1700万人の国民の人気を得た。責任を認めたから英雄になったわけだ。
 チャベスが大統領になったあと、軍部が反乱を起こし、チャベスは身柄を拘束された。ところが、暫定大統領となった商工会議所連盟会長がモタモタし、チャベス支持の国民が決起したため、反乱した軍部は動けなくなった。
 この本は、そのあたりの息づまる攻防戦(いえ、軍事的な市街戦があったというのではありません)を生き生きと描いています。
 チャベスは独裁者に転化する危険性があると著者は指摘しています。なるほど、そうかもしれません。でも、私がチャベスのしていることで、いいなと思うのは、次の2つです。医療と教育です。ここにチャベスは本当に力を注いでいるのです。この点はどんなに高く評価しても、しすぎということはないと思います。
 国内総生産に占める教育予算はかつて3%以下だったのが、今は6%。学校給食を受けた子は、24万人から85万人に増加した。識字計画への参加者は100万人をこえている。医療面では1700万人もの人々に医療が確保された。キューバから大量の医師を受け入れている。
 そして、チャベスは、毎週日曜日のラジオ番組に実況中継で出演する。それも、なんと、朝9時からの5時間番組だ。全国各地をまわって直接、国民と対話している。それをそのまま全国に実況中継している。うーん、すごーい。すご過ぎます。
 いま、ベネズエラから目が離せません。

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