弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年12月28日

マーリー

生き物

著者:ジョン・グローガン、出版社:早川書房
 アメリカで200万部をこえる大ベストセラーになった本だそうです。世界一おバカな犬が教えてくれたこと、というサブタイトルがついていますが、愛犬は人生の伴侶だということがしみじみ実によく分かる面白い本です。
 マーリーはラブラドール・レトリバーです。ところが、実は2系統あるのだそうです。イングリッシュ系は体が小さくてずんぐりしていて、角張った頭とおとなしく落ち着いた性格ドッグショーに向いている。もう一つのアメリカン系は、見るからに大きく、たくましく、流線型の体型をしている。エネルギーにあふれて疲れ知らず、気性が悪く、ハンティングや競技向けの犬。野山で真価を発揮するアメリカン系ラブラドール・レトリバーを家庭でペットとして飼うと、大変なことになる。そうです、マーリーは、まさにアメリカン系の犬だったのです。その破天荒なやんちゃぶりが、これでもか、これでもかと紹介されています。それでも、老衰するまで著者はつきあいました。
 著者の妻が死産して悲しんでいるとき、マーリーは静かに寄り添い、全身で妻を慰めた。待望の赤ん坊が生まれたとき、マーリーは大切に扱い、決して赤ん坊を危ない目にあわせることはなかった。そんなエピソードがいくつも紹介されています。犬は人の心が分かるのですよね。
 老犬は人間にいろいろのことを教えてくれる。いつしか時が流れて、身体のあちこちが傷んでくるにつれ、生命には限りがあって、それはどうしようもないことだと。
 マーリーは次第に老いて、耳が遠くなり、身体にがたがきた。老いは生きとし生けるものすべてに忍び寄ってくるけれど、犬の場合には、その足取りが驚くほど急だ。12年間というあいだに、元気な仔犬だったマーリーは、手に負えない若者になり、そして筋骨たくましい成犬から、足腰が弱った老犬へと変化した。
 マーリーは、人生において本当に大切なのは何なのかを、身をもって人間に示してくれた。忠誠心、勇気、献身的愛情、純粋さ、喜び。
 そして、マーリーは、大切でないものも示してくれた。犬は高級車も大邸宅もブランド服も必要としない。ステータスシンボルなど、無用だ。びしょぬれの棒切れ一本あれば、それで幸福だ。犬は、肌の色や宗教や階級ではなく、中身で相手を判断する。金持ちか貧乏か、学歴があるかないか、賢いか愚かか、そんなことはちっとも気にしない。こちらが心を開けば、向こうも心を開いてくれる。それは簡単なことなのに、にもかかわらず、人間は犬よりもはるかに賢く高等な生き物のはずでありながら、本当に大切なものとそうでないものとをうまく区別できないでいる。
 人間は、ときとして、息が臭くて素行は不良だが、心は純粋な犬の助けが必要なのだ。
 著者がマーリーの死を悼むコラムを新聞に書いたところ、読者からなんと800通ものメールが来たそうです。心の優しい動物好きはアメリカにも多いのですよね。
 わが家でも、子どもたちが小さい頃に犬を飼っていました。小型の芝犬です。メス犬でしたが、息子がマックスと名付けました。子どもたちと犬を連れて散歩するのが、私の大いなる楽しみでした。世界一のバカ犬とは決して言いませんが、飼主に似たのか、間抜けな犬でした。庭にクサリでつないでいると、同じところをぐるぐるまわっているうちにクサリがからまって身動きとれなくなるのです。それでもバカな犬ほど可愛いというように大切にしたつもりでしたが、ジステンバーにやられて早死にさせてしまいました。マックスが死んでもう何年もたちますが、動物霊園に遺骨をおさめていますので、年に一回は今もお参りしています。
 犬は人間の古き良き伴侶なんだとつくづく思います。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー