弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年12月14日

タイゾー化する子供たち

著者:原田武夫、出版社:光文社

 タイゾーって、何だろう。一瞬、不思議に思ってしまいました。そう、あのタイゾー先生のことなんです。例の小泉チルドレンの一人ですよ。小泉首相がマスコミとタイアップして送りこんだ「刺客」によって殺された「反対」派の議員のほとんどが自民党に戻った今、小泉チルドレンがどうなるかという議論をするのは、あまりにも馬鹿ばかしいので、私はしません。コップの中の嵐の二の舞でしかないからです。
 この本のサブタイトルは長文ですが、次のようになっています。
 契約社員から国会議員になった杉村太蔵のように、今、日本の子供たちは「プロセスなき突然の成功」しか見えていない。
 タイゾー化現象とは何か。それは、大成功という結論だけが先に来て、それに至るプロセスを思い描くことができない、プロセスのないサクセスストーリーを語る一群があらわれている状況のことである。そこでは、苦節何十年という苦労話とはまったく無縁で、いきなり「成功」してしまう。自分の「成功」をメディアに対してひけらかし、何の衒(てら)いも感じない。理念を語らず、ひたすら印象論だけを繰り返す。
 東大生の頭のなかに、同じように「いきなりの成功」がインプットされつつある。
 いたって真面目な本です。読むと、背筋の寒くなる現状が報告されています。日本民族、危うし。そんな感しきりです。
 現実に「エリート候補」であるはずの東大生たちは、悩みに悩んでいる。東大に入って目標が達成されたという燃え尽き感。目ざすべき方向も、何をすれば良いのかも本当は分からないのに、自分は東大生なんだという空虚なプライドのために、質問すらできないまま流される毎日。空虚な東大生が、形だけエリートという烙印を押されて、外へ押し出されていく。
 今、彼らには目ざすべきモデルがない。本当は、官僚や弁護士、あるいは大会社のビジネスマンになろうと思っていた。ところが、苦労して就職しても、世間からのバッシングのターゲットにされるのでは、割にあわない。
 優秀な東大生は、就職活動で真先にまわるのは外資系企業、とりわけ投資銀行などの金融関係の外資企業だ。外資系企業に引きつけられるのは給料の良さ。年俸1000万円台。30代の社員では、3000万円から4000万円に達するという。総合商社だって、年俸が1000万円を超えるのは30代を過ぎてから。早ければ1年生の夏学期の冒頭から、アメリカ系外資に就職し、高級スーツに身を包んだ先輩たちが学生の目の前に颯爽と登場するのだ。
 そして、大学内では起業サークルが大流行だ。彼らの頭のなかにあるのは、「いきなりの成功」である。
 教師たちのエゴ、教育評論家たちの勝手な議論、そして何よりも競争社会への恐怖心から、とにかく東大へ行けと子どもたちを送り出す親たち。彼らに背を強く押され、東大に入ってきた学生たちは、最初から迷っている。記念受験ならぬ、記念入学といった感じの学生たちが数多く徘徊している。
 目的なく高いハードルを越えてしまった人間ほどやっかいなものはいない。なぜなら、彼らは目標がないため、心ばかりは焦っているが、他人より自分は優れているという空虚なプライドだけはしっかりと持っているからだ。
 実は私も大学に入ったとたん、自分は何を目ざすべきなのか途方に暮れた思いがあります。5月病にはなりませんでしたが、高校と同じように授業に出るだけでよいのか、大いに悩みました。幸い、高校の先輩の紹介でセツルメントという聞いたこともないサークルに入り、たちまちよみがえりました。毎日忙しく、やることが具体的に提起されるのですから、本当に充実した学生生活に一変しました。国民大多数の人々の生活の目線でずっと考えて生きていこうと決意したのは、セツルメント活動のおかげです。
 外資系企業に入って、あぶく銭のような巨額な金銭を扱っていても、きっとそのうちむなしさを感じるようになると私は思うのですが、いかがでしょうか。

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