弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年12月12日

縦並び社会

著者:毎日新聞社会部、出版社:毎日新聞社
 精神科医の香山リカさんは次のように語ります。
 問題なのは、格差の下とされる若い人たちが、甘んじて受け入れてしまっていること。自分探しや身近な幸せは考えるが、社会のあり方については考えようとせず、声も上げない。そして格差の上にいる人は、同情や共感が乏しく、他者に厳しい視線を向ける。こうした傾向が続けば、今後も格差は広がる。
 まことにもっともな指摘です。私たちは、とりわけ若者はもっと怒るべきです。そして怒りを行動にして表わすべきだと思います。
 生活保護を受けている人が100万人となった。これについて、アンケートにこたえた3割の人がもっと審査を厳しくして減らすべきだと回答した。つまり、弱者は勝手に死ねと考えている人が3割もいる。これは明らかに増えている。自分の幸せが維持できるかどうか不安で、人に与える余裕のない人、自分が生きるだけで精一杯の人が多くなってきたことのあらわれ。保険証をつかえない無保険者が、いま全国に30万世帯もいる。
 恐るべき事態です。身体の具合が悪くても、じっとガマンし、医者にかからず、安い薬ですますのです。
 ネットトレーダーが急増している。取引口座数は2005年9月に790万になった。1年間で200万増えた。これは売買金総額の3割を占める。市場にはプロがいるので、免許取りたての人がドロレースに出るようなもの。もうけ続けられるのは2割にみたない。プロはかえって売買しやすくなって喜んでいる。
 100万ドル以上の金融資産をもつ人は世界に830万人いる。その6人に1人が日本人。強い者をより強く、負けた者はそのままにするほうが社会が活性化するというのが政府の考え方。その結果、格差は拡大し、社会病理となって噴出している。
 韓国のサラ金業界の上位10社のうち、8社を日系、在日系企業が占める。債務者には事前に身体放棄書を書かせ、返済しないときには、酒場や風俗店に入れる。
 国民は「官から民へ」という言葉に踊らされた。小泉政権の5年間で、権力の砦はむしろ強化された。日本は特定の人間が牛耳る縁故(クローニー)資本主義へと後戻りした。
 ノーベル賞を受賞したアメリカの経済学者であり、クリントン政権の委員会メンバー、世界銀行の副総裁だったジョセフ・ステグリッツによる次の指摘は重要です。
 アメリカの「小さな政府」政策は、実は小さな政府ではない。ブッシュ政権になって企業への補助金は増え、政府は規模を拡大している。「小さな」というのはレトリックであって、現実ではない。小さな政府というが、実際は大企業のための大きな政府で、うまくやっているのは、ブッシュ政権に個人的につながっているハリバートンのような国防関連企業や石油産業のトップにいる人のみ。
 アメリカでは、少数の人がますます豊かになり、中間層などそれ以外の人々がますます貧しくなっている。国民は「小さな政府」政策が、自分たちをより不安定にすることに気づき、流れを止めるべきだ。
 まことにもっともな指摘です。そのとおりだ、と私は大きな声で叫びたいと思います。

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