弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年11月15日

マネーロンダリング

著者:平尾武史、出版社:講談社
 山口組五菱会系ヤミ金融グループによるマネーロンダリング事件では、100億円ものお金が規制の網をくぐり抜け、香港へ送金されていました。この本は、そのカラクリを追跡しています。
 クレディ・スイス香港の最低の預入額は 100万ドル。日本円で1億円以上ということ。行員の年間の預金獲得ノルマは9000万スイスフラン(70〜80億円)。信じられないケタです。こんな巨額の預金を集める銀行があるんですね。
 最近の新聞記事に、スイスの銀行が日本支店を開設したことが紹介されています。それは日本のリッチ層をターゲットとしている。そのターゲットとは、1人10億円以上の金融資産をもつ層だ。いや、実は50億円以上をもつ層が狙い目だ。これは、不動産を含まない資産なんです。すごいことです。
 クレディ・スイス香港の日本人顧客は200人で、預け入れ資産は2000億円。クレディ・スイス香港のプライベートバンクの顧客には、会社経営者や多額の遺産を相続した人、医師などが多い。1人のリレイションシップ・マネージャー(RM)がかかえる顧客は40人ほどで、顧客1人あたり平均10億円ほど預かっている。まるで別世界の金額ですよね。これって・・・。
 香港への送金手数料は5%。といっても、40億円送るというのですから、手数料だけで、なんと2億円になるわけです。まったく想像を絶します。
 実は、海外へ200万円以上を送金しようとすると、国外送金調書という書類が必要になる。送金する銀行が税務署へ提出する。そして、送金額が3000万円をこえると、外為法にもとづいて、送金する本人が税務署・日銀に報告することが義務づけられている。そして、窓口をクリアしても、決裁する本店の担当者が書類をチェックして怪しい金融庁へ疑わしい取引として送金の事実が報告される。金融庁が少しでも犯罪に関与すると判断した情報は、警察庁、検察庁、税関などに提供される。だから、個人が一度に10億円を送金するなどというケースは本来ならありえないこと。
 ヤミ金の帝王の住居は東京の一等地のマンション。1ヶ月の家賃が85万円もする。トップの梶山は、芝にある超高級マンションの34階に、家賃92万円の一室を借りていた。
 梶山の配下の奥野は、まだ26歳でしかないのに、ヤミ金融で35〜40億円も稼いだ。梶山は1949年うまれ。静岡の商業高校を卒業して、塗装工などをしていた。上京して、稲川会に入ってヤクザとなる。そのうちヤミ金融を始めた。その後、山口組へ転身する。
 ヤミ金の顧客リストにはアルファベットが付されている。Kは警察に通報する客、Sはお金を借りて、そのまま逃げる客(詐欺)。Bは弁護士に相談した客、Gはごねる客。
 梶山はラスベガスでVIP待遇を受けていた。いくつかランクのあるうち鯨と呼ばれる最上級のもの。特別待遇だ。
 スイスのチューリッヒにあるクレディ・スイス本店にあった梶山の51億円はすべてクレディ・スイス香港から送られていた。梶山の預金は、ほとんど現金ではなく、香港で購入したユーロやドル建ての社債、株式の形で入金されていた。
 暴力団がヤミ金でボロもうけして、そのお金を国内の規制の網をくぐり抜けてスイス銀行に少なくとも51億円を預けていたという手口をかなり暴いています。
 そして、この51億円が犯罪被害者のもとにスンナリ全額が還付されたら何も問題ないのですが、現実には、そうはなりません。私の依頼者にもヤミ金融に大金をだましとられたと訴える人は多いのですが、この梶山グループからだと判明したのは、なんとたったの1人だけでした。そうすると、残ったお金は全額国庫に没収できるのか、それとも被告人の手元に戻ってしまうのか、ということが問題になります。被害者が不明だからといってだましとった被告人の手元に戻るなんて、絶対におかしいですよね。一応の立法措置ができましたが、要は被害者が被害者だと名乗りをあげないとどうしようもないということです。そして、そのための条件整備がさらに求められています。

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