弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年11月17日

狼花

著者:大沢在昌、出版社:光文社
 新宿鮫とも呼ばれる鮫島警部は、今回はナイジェリア人の大麻取締法違反事件の捜査に従事するようになります。
 基本的にクスリをやる奴に利口はいない。夢がない、未来がない、生きていても楽しいことのない奴が、最後の楽しみで手を出すのがクスリだ。ガキがクスリをやる国は、もう終わりだ。日本はそうなりかけている。
 残念ながら、そのようです。
 日本がこれまで犯罪の少ない、治安の良い国だと言われてきた理由は何か。それは、日本警察が優秀だったからではなく、遵法意識が高く、犯罪者の検挙に協力を惜しまない国民性による。しかし、金持ちが増える一方、自分はどんなにがんばってもああはなれないと悟った人間が、一瞬で高額の対価を得る手段として犯罪を選ぶ。貧富の差の拡大が犯罪を多発させる。そんなに単純ではないとしつつ、これを肯定していますし、私も、そう思います。
 ヤクザの世界では、10人が10人、暴力的な人間というのではない。暴力がまったくダメというのは向いていないが、殴りあいにいくら強くても出世できるとは限らない。逆に、腕っぷしし自信のある人間は、トラブルを力で解決したがる傾向があって、一時的には存在が目立つが、いずれはダメになる。本当にケンカが必要なときにはためらわず、とことん、いく。だが、それ以外のときには、なるべくおとなしくしている。それが一番だ。なるほど、きっと、そうなんでしょうね。
 この本は、日本警察のトップが外国人犯罪集団を排除するため、日本の最有力暴力団と組もうとしている事実を指摘しています。うむむ、そんなことを本当にしていいのだろうか・・・、とついつい思ってしまいました。
 そして、闇マーケットの主催者は、実はかつて学生運動が盛んなときにスパイとして潜入していた公安刑事だったというストーリーです。この本の末尾に「公安警察スパイ養成所」(宝島社)という本が紹介されています。私も読みましたが、たしかに、そのような現実があったようです。そして、スパイに仕立てあげられた青年は自殺してしまいます。スパイの非人間性を示す悲惨な話です。でも、スパイって、まさに日陰の身ですよね。マフィアに潜入した捜査官の本を読み映画を見たことがありますが、学生運動の潜入捜査官って、大義名分も何もない、単なる密告稼業ではないんでしょうか・・・。人間としての性格がひねくれてしまうでしょうね、きっと。結婚して、子どもに対して、自分の職業を誇らしく語ることができるのでしょうか。
 新宿あたりの犯罪の現実は、いつ読んでも、かなり重たい気分にしてしまいます。

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