弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年11月10日

アップ・カントリー

著者:ネルソン・デミル、出版社:講談社文庫
 なんと1968年のテト攻勢をメイン・テーマとする現代アメリカ小説です。驚きました。実は、私も同じ1968年を扱った小説を書いていて、この年に何が起きたかについて調べていますから、よく分かります。
 1968年2月のテト攻勢は、私が大学1年生のときに起きました。本当に驚きましたよ。だって、サイゴン(現ホーチミン市)のアメリカ大使館が「ベトコン」の決死隊によって占拠されてしまったのですから。アメリカ万能ではないことを全世界に知らしめた画期的な事件でした。ベトナム戦争で戦死したアメリカ兵は5万8000人。ワシントンにある長く延々と続く壁に、その氏名が彫り込まれていて、観光名所にもなっています。
 1968年は、アメリカが最大の死傷者を出した悲しみの年だ。テト攻勢、ケサン攻囲戦、アシャウ峡谷の激戦など。私も、リアルタイムで聞いていました。
 1968年は、またマルチン・ルーサー・キング・ジュニア牧師とロバート・ケネディ大統領候補の暗殺があった年でもある。そして、アメリカでも日本でも大学紛争があり、アメリカでは都市暴動まで起きている。
 このテト攻勢のさなか、アメリカ軍の中尉が大尉に殺されたのを一人の「ベトコン」兵士が目撃した。その状況を書いた手紙が30年たって発見された。この目撃者を調べてほしい。こんな依頼を、陸軍犯罪捜査部を退役した元准尉が、かつての上司から受けることから話は始まります。そして、ベトナム各地を、かつてのアメリカ陸軍第一騎兵師団の兵士として戦闘に従事した思いを抱いて歴訪します。ベトナム戦争の惨状が記憶に生々しくよみがえってきます。読者は、当然のことながら、ベトナム戦争を追体験させられます。実にすさまじい戦争でした。
 アップ・カントリーというのは、田舎のほう、という意味のようです。ベトナムにいたアメリカ兵がマリファナなと薬物に手を出していたことはよく知られていますが、軍事物資の横流しや文化財の持ち出しなどの犯罪も横行していました。この本は、30年前の犯罪が今も問題となることがあることを明らかにしています。それはアメリカ大統領選でケリー候補の軍歴が問題になったことでも明らかです。
 700頁もある分厚い文庫本で上下2冊の本です。長崎の福田浩久弁護士よりすすめられて読みはじめました。実は、今月末から6日間、ベトナムへ旅行するつもりなのです。大学生時代、ベトナム戦争反対を叫んで何度となく集会やデモ行進に参加していたものとして、また、ベトナム関係の本をたくさん読んだものとして、ベトナムにはぜひ一度行ってみたいと思っていました。

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