弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年11月10日

トンマッコルへようこそ

著者:チャン・ジン、出版社:角川文庫
 博多駅そばの小さな映画館で映画をみてきました。韓国で800万人が笑って泣いた映画だとオビにかかれていますが、まさしく笑えるシリアスな映画です。感動大作というより、心あたたまるファンタジー映画という感じです。といっても、朝鮮戦争を扱っていますから、「JSA」「シュリ」「シルミド」「ブラザーフッド」ほどではありませんが、戦闘場面も出てきます。でも、どこか、ほのぼのとして、とぼけた雰囲気なのです。
 流れるテーマ音楽もぴったりなのですが、どこか聞いたような気がするなと思っていると、日本人の作曲で、あの宮崎駿監督の映画でテーマ音楽を作っている人でした。道理で、よく雰囲気が似ています。
 ときは朝鮮戦争のまっ最中。トンマッコルという山奥の村に、北へ脱出しようとしている、いわば敗残兵の人民軍兵士3人がやってきます。そして、南の韓国軍の脱走兵も2人流れてきます。そのうえ、偵察機が墜落してしまったアメリカ海軍大尉までやってくるのです。ところが、外部と途絶した生活を送っている村人は戦争が起きていることを知りませんし、武器のことにもまったくの無知です。鉄砲は長い棒でしかありませんし、ヘルメットは洗面器を逆さにして頭にかぶっているものに見えています。
 知恵遅れの少女が村の内外を自由奔放に飛びまわっています。この少女の笑顔が、また実に素晴らしいのです。純粋無垢を体現するかのように輝いているのです。
 村長が、村人を見事に統率している秘訣を尋ねられ、次のように答えます。腹いっぱい食わせることだ、と。なーるほど、ですよね。飽食と一般に言われている今の日本でも、餓死者が出ているんです。生活保護を受けられずに餓死する人がいるんですよ。
 私の依頼者にも、まともに食べられずにいる人は少なくありません。せいぜいコンビニ弁当かスーパーのタイムサービスで半値になった食品を買ってしのいでいる人が何人もいます。飽食日本とばかりは言えない現実があるのです。
 映画館のパンフレットによると、太白山脈の山奥に廃村となった土地を探しあて、  5000坪の広さの土地に理想郷トンマッコルを2億円かけてつくりあげたそうです。なーるほど、すごいものです。俳優の顔も実に生き生きとしています。
 それにしても、1950年代、同じ民族同士で殺しあったという戦争がひきずるものは、本当に大きいんだなと、つくづく思いました。

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