弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年10月18日

ドイツ・イデオロギー

著者:マルクス、エンゲルス、出版社:新日本新書
 哲学者たちは、世界をさまざまに解釈しただけである。肝要なのは、世界を変えることである。
 有名なセリフです。これがマルクスの言葉だったのか、エンゲルスの言ったことだったか分からなくなっていましたが、この本を読んで、マルクスの言葉だったことが分かりました。学生時代にこのフレーズに出会ったとき、新鮮な衝撃を受けたことを、今も鮮明に思い出すことができます。
 この本は、マルクスとエンゲルスの草稿写真によって完訳を試みたもので、新訳となっています。大変読みやすい内容です。
 人間の思考に対象的真理が得られるかどうかという問題は、理論の問題ではなくて、実践の問題である。実践において、人間は真理を、すなわち、彼の思考の現実性と力、此岸性を証明しなければならない。思考が現実的であるか、それとも非現実的であるか、にかんする論争は、それが実践から遊離されると、純粋にスコラ的な問題である。
 私の大学生時代、学園内ではスコラと称する「理論闘争」が流行っていました。要するに論争です。並木路のあちこちで、セクトの論客たちが口角泡を飛ばして論じあっていました。
 意識が生活を規定するのではなくて、生活が意識を規定する。なるほど、そのとおりだと、つくづく思います。しかし、もう一方では次のような指摘もあります。
 支配階級の諸思想は、どの時代でも、支配的諸思想である。すなわち、社会の支配的な物質的力である階級は、同時にその社会の支配的な精神力である。物質的生産のための諸手段を自由にできる階級は、それとともに精神的生産のための諸手段をを意のままにするのであるから、それとともに、精神的生産のための諸手段を欠いている人びとの諸思想は、概してこの階級の支配下にある。支配的階級を形成する諸個人は、とりわけ意識をももち、それゆえに思考する。思考する者として、諸思想の生産者としても支配し、彼らの時代の諸思想の生産と分配を規制する。
 先日発足した安倍内閣の支持率は、なんと7割もあるということです。今、テレビを毎日3時間以上みている人の7割が小泉を支持しているという世論調査の結果があったなんていう恐ろしい話を親しい友人がしていました。マスコミを握る支配階級が貧しい人々の心をつかんでいるのですね。恐ろしいことです。幻想にとらわれた人々をうまく操っているのが小泉でしたし、今の安倍だと思います。
 国家は、支配階級の諸個人が彼らの共通の諸利害を貫徹し、ある時代の市民社会全体が総括される形態であるから、その帰結として、あらゆる共通の制度が国家によって媒介されて、政治的な形態をとることになる。そこから、法律は、意志に、しかも、それの現実的土台から引き離された意志である自由な意志にもとづくかのような幻想が生ずる。同様に、権利は、その場合にこれまた法律に還元される。
 マルクス主義は古いとかいいますが、こういう指摘を読むと、うむむ鋭いぞ、これは、と思わずうなってしまいます。私は孔子の本も道元や空海の本も読みますが、マルクス・エンゲルスの本も、まさに古典として大いに読み直したいと考えています。どんなに古くても、やはり、いいものはいいのです。

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