弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年10月17日

競争やめたら学力世界一

著者:福田誠治、出版社:朝日新聞社
 フィンランド教育の成功というサブタイトルがついています。いやー、実に良い教育ですよ。こんなに伸び伸びとした教育を受けることができたら、本当にどの子もすくすくと学力が伸びると思いますね。今の日本では全国どこでも中高一貫の学校がもてはやされていますけれど、私は大いに疑問です。なにより、それがうまくいったとしても、格差を拡大させるばかりで、日本社会は現在のアメリカ社会のように暴力が横行する、すさんだ社会になってしまうでしょう。それも私は心配です。
 世界学力調査でフィンランドはずっと世界一位を誇っています。この本は、人口500万人の小国フィンランドが教育の力によって世界のIT産業の先端にいる秘密を探っています。フィンランドの面積は日本とほとんど同じで、宗教はルター派キリスト教徒が85%。
 フィンランドでは高校間格差はほとんどないので、たいてい地元の学校に進学する。職業学校への進学率が高い。フィンランドの学校は、できない子の底上げはするけれど、できる子は放っておく。できるから。そもそも、学校は生徒の成長を支援するところだ。
 フィンランドの教育の特徴は、ひとことで言うと、いやがる者に強制しないということ。あの手この手で促しはするけれど、要は本人のやる気が起きるまで待つ。というのは、人間というものは、もともと興味・関心をもって、自ら学んでいくものだから。強制すれば、本来の学習がぶち壊しになってしまい、教育にならず、かえってマイナスだ。
 私は、ホントにそうだと思います。思い出すと、私も大学受験のとき、たくさん本を読みたいものだと痛切に願っていました。いま、腹一杯、本が読めて、本当に幸せです。
 フィンランドの教育は、自分で学べ、うまく学べないときには援助する、というもの。
 大学には同年齢の30%が、高等職業専門学校には35%が進学する。このほか、大人も成人学校で学んでいる。だから、フィンランドは、世界有数の高学歴社会だ。普通科高校では、1994年に学年制が廃止され、単位制になった。大学に入学するまで、たいてい2〜3年かけて社会的経験するのが普通なので、それほど卒業を急がない。
 国は教科書の検定をしない。教科書の作成過程には教師組合の代表も、教師も加わり、一部の者が独走することはない。教科書を選択するのは一人ひとりの教師であり、それを校長が承認する。教科書は一つの教材でしかなく、その使い方は教師個人にまかされる。
 一クラスの生徒は24人まで。午後4時になると、生徒も教師もいなくなる。教師は授業が終われば、生徒と一緒に帰宅してよい。夏休みの2ヶ月間も、まるまる学校に来なくてよい。だから、フィンランドの教師は、おそらく世界一じっくり準備して授業にのぞむことができる。
 職員室は、教師がくつろぎ情報交換する場であり、日本のように会議をするところではない。教師は、同じ学校に定年まで勤めることがほとんど。
 フィンランドの子どもたちは、競争やテストがなくても、なぜかよく学んでいる。
 フィンランドは図書館利用率が世界一。一人あたり年21冊を借りている。日本は年に4.1冊。人口56万人のヘルシンキ市に図書館が38もある。同じ規模の日本の都市だと6〜13ほどしかない。私の町では、移動図書館(バス)まで廃止されてしまいました。
 教師と生徒にゆとりがあると、学力が伸びるという見本のような国です。日本も参考にすべきだとつくづく思いました。

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