弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年10月 5日

子ども兵の戦争

著者:P・W・シンガー、出版社:NHK出版
 本当は、こんな本は絶対に読みたくなんかありません。子どもに銃を持たせて戦場で兵士として働かせる。それも兵站部門ではなく、安上がりの消耗品としてつかうなんて、本当にとんでもないことです。しかも、その子どもたちは誘拐してくるというのです。悲惨です。気の毒です。人道に反します。幼いころに人殺しさせられた子どもが大きくなったとき、どんな人生を過ごすでしょうか。考えただけでもゾッとしてきます。
 南米コロンビアでは、子ども兵は「小さな鈴」と呼ばれて、使い捨ての見張り役にされ、また、「小さなミツバチ」とも呼ばれている。敵が気づかないうちに刺すから。「小さな車」という言い方もある。疑わずに検問所を通過して武器をこっそり運べるから。
 ゲリラ部隊のなかには子ども兵士で3割を占めるものもある。子どもといっても、8歳とか11歳というのは珍しくない。
 トルコのクルド労働党(PKK)は、3000人の未成年者兵を擁している。武装した最年少メンバーは7歳。また、未成年のメンバーの10%は少女である。
 アフリカのブルンジでは、最大1万4000人の子ども兵が戦っていて、その多くが
12歳前後だ。難民の子どもやストリートチルドレンが徴集されている。
 アフガニスタンの子どもの30%が成人する前に軍事活動を経験している。
 子どもたちは無垢だから、闇の勢力に対抗する道具としては最高だ。
 これは、あるタリバン兵の言葉だそうです。とんでもないことです。
 スリランカのタミル・イーラム解放の虎(LTTE)は、少女兵士をもっとも多くつかっている。部隊の約半数が女子で、「自由の小鳥」とも呼ばれている。子どもたちの多くは自爆テロの特殊訓練を受けている。
 LTTEは自爆テロによって、インド首相もスリランカ大統領も暗殺している。LTTEは、タミル族の少女を集めることが、女性解放を助け、農民制度の抑圧的な世襲制を是正することになると主張している。ええーっ、そんな馬鹿な・・・。まったく驚いてしまいます。
 アフリカでは、部隊に加わって銃を持つのがかっこよくてスリルがある、と言って志願する子どもが15%もいる。そして、教育システムのなかで戦争を美化し、子どもたちが組織に共鳴し、仲間になるようにし向ける。
 子ども兵士は、人を殺した瞬間から、自分の人生は永遠に変わってしまったと思う。儀式的殺人は、組織の権威に対する抵抗心をなくさせ、殺人にまつわるタブーを破る。子どもたちをおびえさせ、最悪の暴力行為に加担させる。道徳上の最後の一線を越えたことで、子どもたちは自分の知っている唯一の環境から忌み嫌われる存在となり、帰るところがなくなって、組織への依存度をさらに深める。人生のよりどころは、銃と仲間の戦闘員の二つだけになる。こうなったら最後、子どもたちは命令にほとんど全面的に服従する。
 子どもは戦闘をゲームだと思うから、恐れを知らない。
 子どもが本来もっている恐いもの知らずの面を強化しようと、子どもに麻薬やアルコールを服用させる組織もある。
 子ども兵の悲劇は、紛争が集結したあとも後遺症が残る点にある。未成年の戦闘員をつかうことで、将来の暴力と不安定の土台ができる。子ども兵は、ひとりでに増殖していく。戦闘のたびに、戦争で心に傷を負い、希望も技能も持たない集団が新たに生まれ、次なる暴力への予備軍とも引き金ともなる。
 アラブでは、殉教者は70人の身内を天国に入れる力を授かるとされている。このような素晴らしい未来は、貧困と絶望しか知らない子どもたちにとっては、非常に魅惑的だ。自爆テロリストを生み出す重要な要素は、周囲に対する失望と、天国に行きたいという欲望との結びつきだ。
 子どもたちはテロリスト組織から、家族が受けとる報酬に心を動かす。最高2万5000ドルを家族はもらえる。ハマスは、5000ドルと、小麦粉、砂糖、衣料品だ。そして、子どもの「殉教」をまるで結婚式のように扱い、お祝いする。子どもの死は、新聞で告知され、遺族の家には、何百人もの客がお祝いにやってくる。死んだ子どもの遺書に従って、客には甘いデザートやジュースがふるまわれる。このような楽しげな光景や、自分も生まれ育った村で同じように名を上げられるかもしれないという思いが、ほかの子どもたちや、その家族の心をゆさぶる。多くの親たちは、我が子が自爆テロで死んだことを誇りに思っている。母親が小躍りして喜ぶことさえある。わが子を差し出すことをためらう親は、いじめにあったり、非難されたりする。
 イスラム教は自殺を禁じている。しかし、子どもによる自爆テロは、敵がいるから、話は別なのだ。訓練の最後に、ビデオやカセットテープによる遺言や別れのメッセージを記録する。これによって後戻りはできなくなる。後戻りしたら、公の場で恥をかきかねないからだ。
 テロをなくすためには、教育制度を再建し、経済を立て直すこと、そして、子ども兵士を集めようとする体制を弱体化させることだ。
 本当に、本当に悲しい現実が、この地球上にみちみちているのですね。昔も今も、軟弱な若者を軍(今は自衛隊)に入れて鍛えろ、という意見があります。しかし、軍隊とは、要するに、ためらいなく人を殺せるマシーンにするところです。そんな、自分の考えをもたないまま人殺しマシーンになった人間をつくって、どうしようというのですか。やはり、人間らしい温たか味のある社会をお互いにつくりあげたいものですよね。

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