弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年9月28日

チャベス

著者:ウーゴ・チャベス、出版社:作品社
 ベネズエラのチャベス大統領がキューバの革命家チェ・ゲバラの娘であるアレイダ・ゲバラのインタビューにこたえて語った内容が本になっています。
 今、アメリカのブッシュ大統領がもっとも倒したい男、憎々しく思っているのが、このチャベス大統領です。チェ・ゲバラの解放の夢を継ぎ、アメリカのラテン・アメリカ支配に対して果敢に挑戦中です。
 ウーゴ・チャベスは1954年生まれ。元軍人。1998年にベネズエラの貧困層の支持を受けて大統領に当選。アメリカが裏で操った2002年の軍事クーデターで危うく殺されかかったものの、国民の圧倒的な支持を得て生き延び、クーデターをつぶしてしまいました。以後、何度もの選挙を圧倒的支持で乗り切っています。
 アレイダ・ゲバラは1960年生まれ。チェ・ゲバラの娘で、父親と同じ医師(小児科)です。
 チャベスに反対する右翼、財界勢力は職業俳優を雇ってチャベスの声を真似させた。反対政党の指導者は(殺して)油で揚げてしまおうと呼びかけた。これはすごい効果をおさめた。それでも、チャベスは、なんとか乗りこえることができた。
 それまでの議会はチャベス反対派ばかり。だからチャベスは、国民投票を実施し、制憲議会を選出することにした。議事堂には、1998年の選挙で選ばれた、チャベスが少数派の国会と、チャベスが多数の制憲議会が同居することになった。議事堂の右翼棟と左翼棟で同時に憲法が審議された。
 チャベスは、「軍が街へ」というスローガンを打ち出し、軍人が市民ボランティアとともに街頭に出て働くようにした。
 チャベスは軍隊を変える努力を怠らなかった。チャベスの運動にとって重要なのは、士官学校や主要な基地を討論の場としてつかうことだった。市民の心をもつ兵士と軍人意識をもつ市民をつくることをチャベスたちは狙った。
 チャベスは大統領として教育制度の改革に取り組んだ。公立学校の入学時の寄付金集めを廃止したところ、子どもたちが大津波のように学校に押し寄せてきた。兵営などを校舎に改造していった。実に、予想した倍の60万人の子どもが入学した。
 チャベスは人民銀行をつくり、小口融資を始めた。
 チャベスは私企業を国有化するのではなく、国営企業を設立した。
 チャベスと民間企業との関係はあまり良くない。私企業の多くは堕落してしまっている。というのも、政治的商売と腐敗によって、反民族主義的で無国籍化したエリートだから。資本家にとって重要なのは経済的利益であって、主権や、死者が何人出るかなどには全く無関心だ。関心があるのは、財布の中身や銀行のドル口座の残高だけ。
 チャベスは識字運動に大々的に取り組んだ。これにはキューバの支援を受けている。
 2003年の6ヶ月間で、識字運動によって100万人が読み書きを覚えた。ベネズエラでは現在、人口の60%が勉強している。石油公社の資金をもとに奨学金制度を設けた。目標は、40万人を対象に1人月額100ドルを支給すること。しかし、まだ目標には達していない。
 数学の教科書はキューバのハバナで印刷されている。スペイン語などを教えるビデオやテレビもハバナから来ている。ベネズエラは、以前はキューバに石油を売っていなかったが、今は売っている。
 この本を読むと、新興国の若く有能な指導者が熱っぽく理想を語っていることがよくよく伝わってきて胸を打たれます。しかし、訳者が解説しているように、ベネズエラの現実は決してバラ色ではありません。
 貧困層の多くにとっては生活が著しく向上したとの実感は依然として乏しく、富裕層をはじめとする旧支配階層との先鋭化している対峙関係や犯罪激発などで、社会的緊張はゆるむ気配を見せていない。石油収益を私物化する腐敗や、チャベスら指導部がいくら笛を吹いても踊らない不能率な官僚主義も深刻な問題のままだ。
 ベネズエラの再生を目ざすチャベスの意気込みをよく伝えてくれる、元気の出る本です。

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