弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年9月21日

1968、世界が揺れた年(前編)

著者:マーク・カーランスキー、出版社:ソニー・マガジンズ
 60年代後半の学生は、60年代前半の学生にはない体験をした。そのひとつが徴兵である。徴兵によって学生たちは、何千人というアメリカ兵が殺し殺されている戦争にいやでも駆り出される。
 もっと重要なのは、残酷で無意味な暴力に溢れた戦争そのものの様子が毎晩テレビに流れ、どんなに非難しても、こうした学生たちには戦いを止める力はなかったということだ。18歳で徴兵されるのに、21歳未満では選挙権すら与えられていないのだ。
 アメリカの選抜・徴兵局は、ひと月に4万人の若者を徴兵する計画だったが、その数は4万8千人となった。ジョンソン政権は研究課程の学生に対する徴兵免除を廃止し、7月に始まる会計年度のあいだに15万人の大学院生を徴兵すると発表した。この政策は、大学院への進学を考えていた若者たちに大きな衝撃を与えた。ローズ奨学金を受けてオックスフォード大学の大学院へ進学することになっていた、ジョージタウン大学政治学部4年のビル・クリントンもそのひとりである。大きな衝撃を受けたのは大学院にとっても同じこと。一年生として入ってくる20万人の新入生を奪われてしまうと訴えた。
 マーティン・ルーサー・キングは、アトランタの有名な聖職者の裕福な家庭に育った。FBIはキングの行動を執拗に追跡した。写真をとったり、周辺に情報提供者を送りこんだり、会話を録音して監視した。
 フーバー長官はキングと共産主義者とのつながりを暴くという名目をたてていたが、実際はまったくつながりがなかった。FBIが握った動かぬ証拠は、キングが日頃から何人もの女性と性的関係をもっていることを裏づけるものだった。キングは、セックスはストレス解消法だと言っていた。公民権活動家の多くもセックスにふけっていたから、キングを批判できなかった。キングが女性を追いまわしていたのではない。行く先々で女性に追いまわされていたのである。
 FBIはキングの情事に関する写真などを目ぼしいジャーナリストに提供した。しかし、それを報道しようとする者はいなかった。60年代には、この手の話題はジャーナリストの品位と倫理に関わるものとみなされていたからだ。
 キングが40歳にならないうちに白人脱獄囚に暗殺されたというニュースが広がると、たちまち暴動がアメリカ全土ではじまった。暴力事件は120都市の黒人居住地区で起きた。殺された黒人はワシントンDCだけでも12人にのぼった。
 この年、私は大学2年生でした。本当に世界が揺れた年です。日本は大変好景気が続いていましたが、学生は街頭デモをくり返していました。私も、銀座の大通りを何度もフランスデモで行進しました。深夜のことですが、壮観でした。なんだか世界を支配したかのような気分で,とても爽快でした。同じときにアメリカの青年は徴兵制のもとでベトナムの戦場へ狩りたてられていたのです。同世代の日本人青年がアメリカに行っているときに徴兵されてベトナムに送られ、日本に帰ってきたときに亡命を表明するということもありました。

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