弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2006年9月20日
がん遺伝子は何処から来たか?
著者:J・マイケル・ビショップ、出版社:日経BP社
原題は「ノーベル賞獲得法」だったそうです。ノーベル賞を受賞した著者が、それに至る経緯も紹介しています。
男の成功の陰には女性の呆れ顔がある。なんとなく分かる言葉ですね。
自分が本当に必要とされている場所を選ぶできであり、進むべき道を見栄などで決めてはいけない。まことにもっともな指摘です。私も今の弁護士という職業、そして今の活動場所(ホントに田舎です)に決めて良かったと本当に思っています。
三つの教訓を得た。第一に、その分野の専門家よりも、外から見ることのできる立場の人間の方が鋭い観察をすることがある。経験不足だからといって。ひるむ必要はない。第二に、自分の想像力に信頼を置くべきだ。たとえ通説と矛盾する内容であっても、というより矛盾するときこそ、自信を持たなければならない。第三に、常識に挑戦する知的態度が不可欠だ。平均以上の成果を上げようと思うのなら、危険を覚悟しなければならない。
この指摘にも、すごく同感します。
人に知識を伝えたいという欲望は、体の中から自然にわき出てくるものだ。身構えてするものではない。理屈も不要だ。これは文化の中で生きる人間として一種の義務であり、使命でもある。私のなかにも、私が理解しえたことを世の中の人に分かりやすく伝えたいという欲望があります。それはふつふつと湧いてくるもので、止めようがありません。私が、弁護士になって1年に1冊以上は本を出版してきたのは、その結果です。義務感とか使命感というより、ともかくおのれの心が命ずるままに本を書いて出版してきたということです。残念なことに、あまり売れませんので、最後はタダで配っています。
異質な者を受け容れる集団には、寛容な姿勢とともに優れた才能がおのずと備わっている。日本の社会そして日本の大企業に、この寛容さが失われている気がしてなりません。異なった思想・信条の人も広く包摂する集団こそが明日への飛躍を保証するのだということが忘れられているように思います。
多くの微生物は、人間が安心して快適な生活を送り、人生を楽しんだり、ときには快楽を味わったりするために不可欠な存在、少なくとも重要な役割を果たしている存在なのである。ヒト1人につき100匹もの微生物が生息している。たとえば、私たちの体に進入してくる一過性の微生物のうち、有害な菌が容易に定着してしまうことがないのは、正常細菌叢が退治してくれるからだ。排便後、トイレットペーパーをいくらつかっても、肛門の周囲の皮膚表面には何百万という腸内細菌が付着する。だが、数時間のうちに、この部位にふだんから住みついている細菌が侵入者を一掃してしまう。
ヒトの体は300兆個の細胞の集合体である。だが、細胞は単なる構成単位ではない。内部に精緻な仕掛けをもち、生きて呼吸する。機能を果たすために体内を移動することもある。その機能はまちまちで、それぞれ任務が決まっている。化学物質レベル、あるいは分子レベルの言葉で互いに会話もする。増殖能力をもち、人の場合、生まれて死ぬまでに述べ1京回(1兆の1万倍)分裂する。各細胞は、自分がいつ、どこでどのように仕事をすればいいか把握している。この秩序が乱れると、がんが発生する。がん細胞は、他の細胞とのあいだで取り結ぶ社会契約を無視し、無秩序な増殖を続け、版図を広げる。
ヒトの体内では、一生のあいだに少なくない数の細胞ががん化につながるような異常をきたすと考えられている。そして、たいていは手に負えなくなる前に、初期の段階で正常な状態に回復するよう処理される。しかし、まれにそのままがん化のプロセスがすすみ、一個のがん細胞が分裂を続けて塊を形成する。こうした歯止めのきかない増殖によって致命的な結果がもたらされる。
がん細胞はがん細胞を生む。がん細胞の機能は細胞から細胞へと受け継がれていく。
がん細胞とは何か。私たちは何を考え、どうすべきか。さすがにノーベル賞を受賞した人は違いますね。いろいろ示唆に富むことの多い本でした。
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