弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年9月15日

アメリカ弱者革命

著者:堤 末果、出版社:海鳴社
 2005年10月時点で、イラクでのアメリカ兵の死者は2200人。万一、生きて帰っても誰も面倒はみない。予算カットで軍病院の予約もとれない。
 アメリカの自己破産申立の理由は2つ。医療費と離婚。まっとうに働いている中流階級の一家が、ある日、家族の一人が病気にかかっただけで、高すぎる医療請求書につぶされて破産し、社会的に抹殺されてしまう。
 大統領選挙のときにつかわれた電子式投票機械は、たとえばオハイオ州の黒人居住区では、投票待ち時間が平均5〜6時間。通常なら、184人に1台あるはずの機械が、貧困地区では1000人に1台しかないから。
 落ちこぼれゼロ法が軍のリクルーターに役立っている。この法律は、全米の高校からドロップアウトする生徒を救いあげ、ゼロにするため、周囲の大人が状況を正確に把握しておかなければいけない、としている。その大人のなかに軍も含まれる。だから、軍のリクルーターは、生徒の名前、住所、国籍、両親の職業、成績、市民権の有無、そして携帯番号を知ることができる。拒否した高校は、政府からの助成金が打ち切られる。
 軍に入ったら大学へ行く費用を全額、軍が持つという甘言でつられる。本当はそうではない。そして、州兵になっても、イラクへ送られる。イラクに駐留しているアメリカ兵の10人に1人は州兵と予備兵。一度、入隊してしまえば、上官からの命令にノーとは言えないのだ。軍隊なのだから・・・。
 アメリカ市民ではアメリカ軍の現役兵士が4万人近くいる。入隊すればアメリカ市民権を与えるというエサでつっているのだ。2004年にアメリカ軍がリクルート用につかった費用は3億3,100万ドル(330億円)。リクルーター若者には夢を見せてやるのだ、とうそぶいています。夢だけに終わるのだけど・・・。
 アブグレイブ刑務所でイラク人の捕虜の虐待が起きたとき、拷問したのは、職を奪われた工場労働者たちだった。大学費用がほしくて入隊した一人だった。
 イラクに駐屯したアメリカ兵の延べ人数は100万人。国防総省は、これから精神的治療が必要になる兵士は10万人をこすと予想している。極限状態におかれて精神が不安定になった彼らは、帰ってきても、普通に人と接することが難しくなる。家族とのコミュニケーションがとれない。夫婦仲がうまくいかない、自殺や殺人に走る。不安症や不眠症から仕事が続けられなくなる。
 2004年時点でアメリカには350万人のホームレスがいる。そのうち50万人がイラク帰還兵だという。すさまじい現実です。侵略する国においても内部崩壊がはじまっているのですね・・・。

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