弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2006年9月13日
織田信長、石山本願寺合戦全史
著者:武田鏡村、出版社:ベスト新書
織田信長と石山本願寺とのあいだの足かけ11年に及ぶ合戦の行方を詳しく追った本です。なかなか面白い内容でした。さすがの信長も宗教を敵にしたら、簡単にはいかなかったのですね。
石山本願寺が信長に抗して挙兵したのは1570年(元亀元年)9月12日。石山本願寺は、信長軍に包囲されながらも、4万人が生活できる空間域を確保していた。
信長は本願寺の退去をしつこく強要した。それには二つの戦略的な展望があった。まず第一に、本願寺を屈服させ、大坂から退去させることで、各地の大名と結ぶ門徒勢力の力を配下におけば、尾張、美濃、近江、京都そして摂津、河内、和泉、大和が結ばれて、織田軍の軍事と交易の回廊は瀬戸内海を通じて四国・中国・九州へと伸ばすことができる。
信長は本願寺勢力を長袖者と侮りました。これは、法衣などの長袖をまとう坊主や、それに従う農民などの力は、いかほどのものか、という侮り(あなどり)の思いがあらわれていました。しかし、その認識がまったく甘かったことを信長はやがて思い知らされるのです。逆に信長は、四面楚歌に陥ってしまいます。
1574年(天正2年)正月元旦、岐阜城の信長は朝倉義景・浅井久政・浅井長政の三人の首を薄濃(はくだみ。漆塗りして金粉で色づけしたもの)した三つの髑髏(どくろ)として、その前で織田家の前途を祝った。これは、真言立川流の秘儀によるもので、死者に非礼をしたものではない。7年間、安置して祀(まつ)れば、8年目にどくろに魂がよみがえってきて、神通力を与えるという風習を尊重したのです。つまり、信長は彼らのどくろを祀って、その霊力を受けて活力としたいという思いがあったわけです。
本願寺合戦で、信長も足に鉄砲の弾を受けて軽傷を負ったそうです。初めて知りました。
本願寺は、4年に及ぶ長期の籠城生活を余儀なくされます。それだけの本願寺の財力と、門徒衆の力、そして本願寺を支援することで信長の勢力を削ごうとする毛利などのバックアップがあって初めてできたことです。
信長は本願寺の完全封鎖を指示すると、近江の安土山に築いていた安土城工事の監督に帰ったりしています。安土城をつくる過程で本願寺合戦が同時併行していたのです。
毛利水軍は、焙烙火矢(ほうろくひや)という、投げつけると爆発炎上する火矢を信長方の水軍のもつ安宅船に投じた。この焙烙火矢の威力は絶大で、信長方の軍船は次々に炎上し、沈没していった。ところが、信長はこれを教訓として、2年後に焙烙火矢や弾丸をはね返す鉄板の装甲を施し火砲三門を備えた巨艦の軍船を浮かべて、本願寺の生命線を絶ってしまった。
本願寺の門主の顕如は信長と講和し、退去して明け渡すという方針をとった。しかし、その子の教如は徹底抗戦派だった。この親子の確執については、信長の目を欺く演技だったという話もあるが、著者はそうではなかろうとしています。
いずれにしても、信長が本当に約束を守るのか、大変な決断だったと思われます。
本願寺の講和は、天皇の要請を受諾した勅命講和として、天皇の権威を絶対視している。これは権威や権力と一線を画してきた親鸞以来の本願寺の立場を大きく改変した。第二に、信仰の主体を門徒から宗主に切り替えた。本願寺宗主の貴人化は、このときから増幅され、加速していった。
専制体制を開くか、中世的自由な特権を守るか、これが信長と本願寺の戦いの根底にあった。教如派の不満は、新たな本願寺の創立に向けられ、本願寺が東西に分立する大きな原因となった。
石山本願寺合戦で本願寺が信長に屈服したことは、中世的自由民の生活の終焉であり、宗教教団が政治に支配・統制される序章となった。本願寺は、自ら内部対立を惹起したことで、やがて東西本願寺に分立する原因をつくり、それによって武家の宗教統制と身分制度の受け皿となった。
このように石山本願寺合戦は日本の中世と近世を画する大きなエポックとなる戦いだった。なるほど、なるほど、よく分かりました。
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