弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年9月 1日

北朝鮮に潜入せよ

著者:青木 理、出版社:講談社現代新書
 韓国映画「実尾島」(シルミド)は大変な迫力がありました。まさしく衝撃の映画です。1968年1月21日、北朝鮮の武装工作員31人が板門店近くの軍事境界線を密かに突破し、4日後に、ソウルの大統領官邸(青瓦台)近くにまでやってきて銃撃戦を展開するという事件が起きました。生け捕りされた1人は、今では韓国で牧師をしているそうです。 大統領の首を取りに来た。そう言われて腹をたてた朴正熈大統領は仕返しを命じた。そこで、同数の31人からなる金日成攻撃の特別部隊が創設されたのです。先ほどの映画は、この苛烈な訓練風景を生々しく描いていました。
 この31人を訓練したのは空軍諜報部隊で北派工作のベテランだった金淳雄(キムスンウン)。31人は、やがて24人に減っていた。そして、北侵命令を撤回された彼らはソウルに直訴するべく蜂起するのです。
 この実尾島部隊を主管していたのが、KCIAの李哲熈局長。この李局長は、KCIA次長補として金大中拉致事件においても中心的役割を果たしています。
 私は、この本を読んで、韓国が武装工作員を派遣しようとしたのは実尾島部隊だけと思っていた浅はかさを思い知らされました。その前にも後にも、韓国は大量の武装工作員を北朝鮮に派遣していたのです。1950年から1999年まで6446人いたというのです。そして、これは公式発表で、その実数はもっと多いとみされているのです。
 韓国国防省によると、1951年から1994年までの間に、北派工作員として1万 3835人を養成し、そのうち7987人が死亡または行方不明になったとのこと。実に6割以上です。北朝鮮から武装工作員が南下するだけではなかったのです。私は、認識を改めました。
 問題は、国が全責任をもつという甘言で派遣しながら、現実には、まったく何の手当もしなかったということです。まさしく国が国民を裏切ったのです。
 そうなんです。いつだって国をあてにすることはできないのです。だって、支配層の顔ぶれが変わってしまえば、そこで責任の所在は曖昧にされてしまうのです。それが現実です。なんといっても、組織を動かしているのは、人なのですから。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー