弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年8月18日

人物を読む日本中世史

著者:本郷和人、出版社:講談社
 高校の必修科目から日本史が外れされているのを知って、腰が抜けるほど驚きました。世界史の方は必修科目です。日本史、とくに明治以降の現代日本史を日本はもっと重視すべきではないでしょうか。
 鎌倉時代、現金収入の欠乏に苦しんだ朝廷は、実のない官職を売りに出した。これを成功(じょうごう)という。大納言とか蔵人頭(くろうどのとう)という、朝廷の施政に必要不可欠な官は対象にならなかった。買ったのは御家人たちで、幕府の許可を得て、競って官職を購入していた。たとえば、左衛門少尉(さえもんのじょう)という官職を得るのに100貫文の銭を上納した。これは今のお金で1000万円にあたる。
 平安時代の仏教は、庶民がどうなろうと関心がなかったのではないか。大乗仏教は自分の解脱(げだつ)を目ざし、人々の解脱を目ざす。このときの「人々」とは、ごく限られた一握りの人々、貴族ほかに限定されていたと解釈すべきである。根本的な問題として、日本では経典はついに日本語に翻訳されなかった。漢文の読めない愚昧な衆生などは、僧侶の眼中にはなかったのだろう。
 新儀非法(しんぎひほう)という中世のはやり言葉があります。それは新儀である。非法である。すなわち、新しいことは、すなわち悪であり、認められない。古いことは良いこと。世の中は新しくなればなるほど悪くなる。
 北条重時は子どもたちに残した家訓に次のように書いている。時としてどんなに腹が立つことがあっても、人を殺してはいけない。こんなあたりまえのことを、わざわざ言わなければならないほど、当時の武士は人を殺していた。たとえば、我が家の前を通るやつはとっつかまえて、弓の標的にしろ。庭の隅に生首を絶やすな。斬って斬って斬りまくり、新鮮なのを補充しておけ。えーっ、中世の武士って、こんなに残忍だったのですか・・・。想像を絶しますね。
 いろいろ日本史の裏を知ることのできる面白い本でした。

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