弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年8月11日

西武争奪

著者:日経新聞、出版社:日本経済新聞社
 西武のもつ2兆円の資産をめぐる攻防戦の実情が明らかにされています。資産家一族の果てしない争奪戦は読み手を嫌な気分にさせてしまいます。
 でも、長く弁護士をしていて、大金持ちでなくても、小金持ちでも親子、姉弟、身内が遺産をめぐって醜くいがみあうケースを多々みてきました。その醜い争奪戦の渦中に身をさらし、一方の身を置いてお金(大金です)をいただくわけですから、弁護士は骨肉の争いを他人事のようにつき離して語るわけにはいきません。
 本書にも、弁護士が何人も実名で登場します。でも、なんとなく弁護士の影は薄いですね。役に立たないと思われたら、簡単に切って捨てられる役まわりでしかありません。
 舞台は、もちろん西武グループです。その総帥の堤康次郎は西武グループの創業者であり、政治家となって衆議院議長までつとめた政財界の大物です。妻のほかに内縁関係(はっきり言うと妾でしょう。もちろん、今はそんな言い方はしません)の女性が2人いました。後継者となった堤義明はその女性の一人との子でした。
 この本は、村上ファンドと堤義明を結びつけたのは、オリックスの宮内義彦だと指摘しています。村上ファンドに200億円を投資していた宮内義彦は、今も小泉政治の指南役として、なんでも自由化を唱えています。強い者だけがますます富んでいくのが何が悪い、と開き直る、とんでもなく強欲な財界人です。
 西武グループの幹部には、絶対に欠席が許されない三大行事があった。元旦の墓参、創業者の命日、そして堤義明の誕生日(5月29日)である。全員が顔をそろえて義明への忠誠を誓う。
 この本の最後に西武は誰のものか、という章があります。西武グループという巨大企業が堤義明という一個人によって私物化されていたというのは恐ろしいことではないでしょうか。会社がオーナーのワンマン社長の言いなりになるというのは、アメリカでは珍しくないようですが、日本もどんどんアメリカナイズされ、悪くなっていくばかりです。会社というのは、顧客すなわち国民あっての会社なのではありませんか・・・。

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