弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2006年8月 7日
近所がうるさい
著者:橋本典久、出版社:ベスト新書
福岡の岩本洋一弁護士から面白い本だよ、と言ってすすめられた本です。本当に面白い本です。というより、はっきり言って大変勉強になりました。ありがとうございます。これからも、みなさん、いろいろ面白い本があったら、ぜひ教えてください。騒音トラブルに悩む人、その相談を受けた弁護士にとって必読の書だと思いました。
有名なピアノ殺人事件が紹介され、詳しく分析されます。1974年夏、神奈川県平塚市の県営団地で起きた殺人事件です。母親と8歳、4歳の2人の娘の3人が刺し殺されました。犯人は上の階に住む男でした。死刑が確定した今もまだ執行されていないそうです。事前に包丁を購入し、周到に殺害の機会を狙っていた確信犯なのに・・・。
精神鑑定を受け、パラノイアと診断されている。階下の亭主が自分を狙っており、ピアノ騒音もいやがらせの一つだと妄想をふくらませていた。相手の攻撃に備えて護身用のナイフを持ち歩き、部屋には手製の槍を備えていた。犯人は控訴を取り下げ、一審の死刑判決が確定している。
団地というのは大変に閉鎖的な空間である。この事件の本質は、自殺願望をもったパラノイア患者による特異な犯罪とみるべきではないか。著者はこのようにみています。
騒音というものが他人との直接的で密接なつながりを構成し、またそれを強く当事者に印象づけるものであるということは、他の環境要素にみられない騒音の大きな特徴である。
ピアノの振動は床に伝わり、その床や、さらに伝わった壁などから大きな音が発生する。車のエンジンの低音は、窓を通して部屋の中に伝わってきた場合に、車種にもよるが、ブーミングによってかなり大きく響くことがある。ブーミングとは、低音の特定の周波数の音が、部屋の共鳴によってとくに大きく響く現象である。
いま、いい住宅の3条件とは、隣人、隣人、隣人だ。性質(たち)の良くない隣人がいれば生活の質が保てないだけでなく、悪ければ生活自体が破壊されてしまい、邸宅どころの話ではない。
動物は外敵が現れれば、それに備えるために相手の情報を細心の注意を払って収集しなければならない。敵の音を聞き逃さないことは動物の生存のための不可欠の本能である。
動物のもっている聴覚特有の本能的な働きが、現代社会に生きる人間の場合にも、トラブルに巻きこまれたときに現れてくるのではないか。
愛情ある夫婦関係では、夫のいびきや妻のいびきがしていても、お互い平気で眠っている。敵対していないため、とくに情報収集して相手に備える必要がない。ところが信頼関係が薄れてきて相手を疎ましいと思うようになると、とたんに相手のいびきが気になりはじめ、相手の音を聞きこんでしまうため眠れなくなる。もし、あなたの連れあいが、あなたのいびきがうるさくて眠れないと言いだしたら、確実に、相手はあなたを敵だと思いはじめていると考えてよい。
うむむ、そうだったのか、やばいぞ・・・。実は、わが家にも危機が迫っているようです。助けて・・・。
重量床衝撃音については、床の仕上げをいくら軟らかくしても、ほとんど効果はない。床自体をガッチリさせなければ音は小さくならない。つまり、重量床衝撃音は床構造に依存する。建物がたってからでは何の対策もとれない。この既存不適格ともいえる集合住宅は、日本全国に無数に存在している。もともと、集合住宅というのは元気な子どもが自由に騒ぐことも許されないような歪(いびつ)な住空間である。それは戸建住宅よりはるかに濃密な関係をいろいろの面で強要される。
上階音の測定を専門機関に依頼すると、20万円ほどかかる。
なかなか裁判にならないのは、これまでの裁判によって認められた慰謝料が1人30万円程度と低いこと、相手が依然として隣りに住んでいることによる。
最近終わりましたが、私も隣家から飼犬の鳴き声がうるさいと訴えられた裁判をしばらく担当していました。原告と被告は、今も隣り同士に住んでいますので、裁判の終わり方も難しいものだとつくづく思ったことがありました。
きのうの日曜日、炎暑のなか久しぶりに近くの山にのぼりました。わが家から頂上(388メートル)まで、ちょうど一時間です。午前11時に出て、お昼を頂上でとろうというのです。はじめの30分はだらだら坂で、森林浴を楽しみます。あと30分は健脚コースになります。夏草が伸びて珍しくヤブこぎまでしました。半ばバテ気味になりながら、なんとか頂上にたどり着きました。360度見晴らしのいい場所があり、そこで上半身裸になって汗をふき、持参のミネラルウォーターを飲んで人心地を取り戻します。以前はビールでしたが、最近はビールを飲みたいと思わなくなりました。水がとても美味しいのです。梅干しをたっぷり入れた海苔巻きおにぎりを口にほおばります。爽やかな風が吹いてきて、虫の声を聞きながらのおにぎりは最高です。トマトも一個丸かじりしました。しばし至福のときを味わい、ゆっくり山をおります。揚羽蝶がたくさん飛んでいました。黒い蝶、黄色い模様の入った蝶など、大型の蝶が悠然と飛んでいきます。道端の木に小鳥の集団が鳴きかわしていました。立ちどまって見てみるとメジロでした。熱中症にかからないようにと注意されての3時間でした。家に帰って昼寝していると雷がゴロゴロ鳴り出しました。夏本番はまだ続きます。