弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年7月28日

モナ・リザの罠

著者:西岡文彦、出版社:講談社現代新書
 実は「ダヴィンチ・コード」は本も映画も見ていないし、読んでいないのです。といっても、ルーブル美術館で本物のモナ・リザの絵は何回か見ましたし・・・。
 ルーブル美術館からモナ・リザの絵が盗まれ(1911年)、2年後にイタリアのフィレンツェで発見されたということを初めて知りました。
 中国や日本の山水画が11世紀にその表現を完成していたのに、ヨーロッパでは「モナ・リザ」の時代でもまだ風景画という概念そのものが存在していなかったという指摘に驚かされました。それまでは人間のドラマの背景に過ぎず、風景それ自体を絵画の主題にすることはなかったのです。
 ところで、この本を私が紹介しようと考えたのは、実はモナ・リザの絵のことではなく、次のような指摘があったからでした。
 本が面白く読めたというのは、本を読んだのではなく、本で世の中が、世の中を見る自分が読めたということ。つまり、単に本の内容が読めても、そんなことは面白くもなんともない。本当に面白い本や学問というものは、それを学ぶことによって、世の中や自分自身のことが「読める」ようなもののことなのだ。それまで漫然と眺めていた社会の様相が、その本を読むことで、突然に明瞭に理解できるからこそ本を読むわけで、本の内容ばかり詳しくなって、世の中のことも自分自身のことも見えていないようでは、学問でもなんでもないということ。
 これは、なかなか鋭い指摘だと私は思いました。大量の本を読み続けている私にとって、それは自分と人間社会を知る作業なんだといつも自覚させられるのです。

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