弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年7月 7日

となり町戦争

著者:三崎亜記、出版社:集英社
 不思議な雰囲気の戦争物語です。いえ、日常生活に戦争が入ってくると、このようにして戦争は身近なものになっていくのでしょうか・・・。
 たとえば、本日の戦死者12人。町の掲示板にこう書かれるのです。いま警察署の正面掲示板に「本日の交通事故による死者○人」と書かれているのと同じです。
 市役所の職員の手になる小説だということです。道理で、職場の情景描写が実にリアルです。主人公は戦略特別偵察業務従事者に町長から任命されます。要するに、交戦状態にある隣り町の様子をスパイとして探ってこいということです。
 それでも、日常生活は、戦争が始まったとは、とても思えないほどの単調さと平穏のなかで続いています。まさに、現代日本の状態です。
 次第に1日の戦死者は増え、53人にもなります。やはり、見えないどこかで戦争がたたかわれているのです。ちょうど、イラクと日本の関係のようです。アメリカのイラク侵略戦争に日本は全面的に加担し、重装備の自衛隊までくり出しました。しかし、日本人の毎日の生活には、イラク戦争はまったく見えてきません。
 僕は、異国の、名も知らぬゲームの競技盤の上にいた。香西さんの弟が、佐々木さんが、主任が、おかっぱの男が、そして多くの死んでいった兵士たちが、盤上の駒として並べられていた。それぞれの駒は何者かによって定められた道筋どおりに動かされ、今は役目を終えて、石のように動きを失っていた。それは勝ち負けを目的としたものではなかった。そしてゲームですらなかった。
 これが、戦争なんだね。
 これが、戦争なんですよ。
 イラクの戦場に出かけた自衛隊員は5500人をこえました。幸い、今のところ一人として殺されることなく、またイラク人を殺したこともありません。日本の自衛隊員が一人死ぬと、2億5000万円の一時金と月70万円ほどの年金が出る特別支給がなされることが、小泉純一郎の一声で決まっていました。この発動がなかったのは、なによりです。でも、報道によると、日本に帰ってから自殺した自衛隊員が3人いるそうです。やはり、イラク派遣がどこかで心身の変調をもたらしたのでしょうね・・・。

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