弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2006年7月 3日
ジェーン・フォンダ
著者:ジェーン・フォンダ、出版社:ソニー・マガジン
ジェーン・フォンダというと、わたしにとってはアメリカの勇敢な反戦女優というイメージです。ただし、彼女の出た映画を見た覚えはありません。この本は驚きの連続でした。まさに衝撃の書です。
私の人生の大きな特徴は、変化が多く、しかもその変化に連続性がないことである。私は社会、家庭、職業という人生の大切な部分で人の目を気にせず、いつも成功よりまず努力することを念頭において生きてきた。なるほど、この本を読むと、それが実感として伝わってきます。
子どもの私は父(ヘンリー・フォンダ)の関心を勝ちとるために本心を隠す習慣を身につけてしまっていた。完璧に、もっと完璧に。私には、それができた。私は悲しみの隠し方を父から教わった。
性的虐待が子どもに及ぼす影響を調べてわかったことは、悪いのは性的虐待をした大人のほうであることをまだ理解できない年齢の子どもたちは、トラウマとなるその経験を自分が悪いからだと思いこんでしまう現実がある。この罪悪感を背負いこむことで、少女はことあるごとに自分を責め、自分の体を憎み、その埋め合わせに自分の体を完璧なものにしなくてはと思いこむ。そして、この感情は母から娘へ受け継がれることがある。
性的虐待を受けてきた子どもは、自分には性的な価値しかないと思いこむ。そして、この思いこみは、よく青春期の派手な性的関係となって表われる。ときとして、性的に虐待されてきた子どもたちは奇妙な輝きを放っているように見えることがある。それは性的なエネルギーがあまりに早い時期から彼らの人生に押し入ってくるからだ。男性は、明かりに引き寄せられる蛾のように性的虐待や近親相姦の犠牲者である女性たちに引きつけられていく。
父親のヘンリー・フォンダは14歳のとき父親と一緒に黒人レイプ犯が民衆からリンチを受けて殺されるところを目撃した。その黒人の男は留置場から引きずる出され、市長と保守官の立ち会いのもと街灯の柱に吊された。もちろん、何の手続もなしに。そして、群衆の銃弾男の体を蜂の巣にした。一部始終を黙って見ていたヘンリー・フォンダは家に帰ってからも何も言わなかった。これが「十二人の怒れる男たち」などに反映した。
ヘンリー・フォンダは、人種差別と不公正は悪であり、決して許されるべきではないという固い信念を抱いていた。
ジェーン・フォンダは父から愛され、母からは愛されていないと思ったそうです。
私は母の虚ろな眼差しに凍りついた。この人は私を愛していない。本当の愛とは心を込めて相手を見返すことであって、何かのついでに偶然ぼんやり視線を向けることではない。うむむ、すごい。感受性が鋭いんですね。
ヘンリー・フォンダは、アメリカにマッカーシー旋風が吹き荒れていたとき、これを共産主義の名を借りた魔女狩りとみなし、テレビを蹴飛ばしたこともあった。
ジェーン・フォンダはずっと過食症でした。14歳のとき、決して太っていなかったのに、女としての完璧な肉体をパワーや成功と同一視するようになった。友人から大食いして吐くという方法を教えられた。
呼吸はセックスの最中のように速く、恐怖に駆られたときのように浅くなった。食べる前にミルクを飲む。それは、まず胃にミルクを入れておくと、後で吐くのが楽になるからだ。太るということは死にも等しいことだ。食べること自体が気分を高揚させ、心が鼓動する。食べ尽くすと、食べたものが体に定着してしまう前に出してしまわなければという強迫観念に襲われる。
アルコール依存症と同じで、拒食も過食も現実を拒絶する病気だ。ただ、アルコール依存症と違い、過食を隠すのは難しいことではない。一日せいぜいリンゴを少し、かたゆで卵をひとつ食べるのが精一杯だった。ジェーン・フォンダが摂食障害から解放されたのは、40代になってからのこと。
ジェーン・フォンダは18歳のとき、1年間も処女を捨てようとがんばったのですが、結局うまくいきませんでした。3人のボーイフレンドと喪失の一歩手前まで行ったものの、どうしても最後まで行き着けなかったのです。リラックスできなかったからです。
ジェーン・フォンダは、役者になるための演技指導を受けました。単に親の七光りではいやだったからです。マリリン・モンローも一緒で、彼女は熱心な受講生でした。
手にもっているコーヒーカップの熱さや重さといった実際の感覚を数分の演技であらわすセンスメモリーというものを受けました。これは、感覚を研ぎすまし、集中力を高めるものでした。
冷たいオレンジジュースの入っているはずのグラスに指をあて、目を閉じた。感覚が研ぎすまされ、すべての雑念が消えていくのをじっと待つ。指先に冷たさが感じられるようになると、目を開け、ゆっくりグラスを持ち上げる。グラスの重さが手に感じられるようになるのを待ってグラスを口に持っていくと、舌の味蕾がその甘酸っぱい液体に目覚めた。初めて役者にしか分からない感覚を経験していた。観客が見ているステージで演技しているのに、その瞬間、たった一人だった。
キミには才能がある。指導していた演劇専門家からこう評価され、ジェーン・フォンダに自信をつけたのです。
人間はリラックスしていなければ実力を出せない。俳優にとって、肉体は楽器なのである。俳優にとってもうひとつ重要な課題は、いかにしてインスピレーションを得るか、だ。
ジェーン・フォンダは乳房を大きくしようと思って整形外科医に胸を見せて、もっと大きくしたいと言った。すると、その医者は、キミはどうかしてるね。バカなことは忘れて家に帰りなさいと彼女を叱った。えらい医者ですね。
ジェーン・フォンダが反戦活動をするようになったのは、彼女がフランスに何年間か生活して共産党への偏見が少なかったこともあるようです。一般のアメリカ人とちがって、共産主義に対する恐怖感を持っていなかった、としています。そして、彼女のフランス語はスウェーデン人と間違われるほどきれいだということ。うらやましい限りです。
マーロン・ブランドはブラック・パンサー党を支持していたとのこと。ジェーン・フォンダも保釈金を集める活動に短期間かかわっていた。それで、FBIのファイルに彼女はのったのです。常に尾行されるようになりました。政府の諜報活動の標的とされ、電話はずっと盗聴されていました。ジェーン・フォンダの盗聴記録はブレジネフの発言と同じウエイトをもってニクソンやキッシンジャーが読んでいました。
ここまで自分の気持ち、身体のこと、セックスのことが書けるのか、読んでいて、うむむと、つい唸ってしまいました。さっと感情移入して、頁をめくる手がもどかしいほどでした。これは上巻です。下巻が待ち遠しい・・・。