弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2006年6月23日
核の軛
著者:ウィリアム・ウォーカー、出版社:七つ森書館
誰も欲しがらないものを生産する工場を、しかも、その管理と廃棄が重荷になるのが分かっていて、なぜ、運転するのか?
その理由は、20年以上前の契約があり、日本が国内で対処しきれなかった問題をイギリスは引き受けることになっているからだという。しかし、その結果、日本は国内の事態をさらに悪化させることになる。
六ヶ所の再処理工場の建設費は、構想段階で7000億円と見込まれていただ、結局、2兆1800億円にまで膨らんだ。そして、2004年の経産省の試算によると、発生する使用ずみ核燃料の半分(6万6000トンのうちの3万2000トン)を六ヶ所再処理工場で再処理したのちに廃棄物を処分したとき、核燃料サイクルバックエンド全体で40年間に18兆8000億円のコストがかかると見積もられている。なんとも巨大な金額なので、まったくピンときません。でも、それが国民全体の役に立つ必要不可欠なものならともかく、電力企業の私益のためにつかわれるに過ぎないのだったら、まったく許せないことです。
日本全国の電子力発電所から毎年とり出される使用ずみ核燃料の量は1000トンあまりで、六ヶ所再処理工場の処理能力は年間800トンだ。
日本の原発から出る使用ずみ核燃料の大部分は、イギリス・フランスとの委託契約にもとづき、フランスのファーグ再処理工場とイギリスのセラフィールド再処理工場で再処理されてきた。その総量は7100トンにのぼる。
2004年末の時点で、日本は43.1トンのプルトニウムを保管している。そのうち37.4トンはイギリスとフランスに保管されており、日本国内にあるのは5.7トン。このように大量のプルトニウムを消費する見通しがまったく立っていないのに、なぜ六ヶ所再処理工場の操業開始を急ぐのか。この疑念が日本内外から投げかけられている。
電力市場に競争原理が全面的に導入されると、原子力は他の電力と太刀打ちできない。そこで、イギリス政府は大急ぎで措置を講じ、10年間は原子力が一定の供給割合を維持できるようにした。日本も同じなのではありませんか・・・。
プルトニウムは空輸の安全性に疑問がある。そこで、アメリカは、民生用プルトニウムについて、日本とヨーロッパ間の空輸を禁止した。以降、プルトニウムは海上輸送するしかなくなった。
使用ずみ核燃料の再処理は労多くて、利少なし、である。その必要性と妥当性を今も言い張っているのはイギリス・フランスと日本だけ(このほか、ロシアとインドも)。
この問題は、よくトイレのないマンションにたとえられます。どんなに、そのマンションが有用だったとしても、人間(ひと)はトイレがなければ住み続けることはできません。しかも、核廃棄物は悪臭で鼻がひん曲がるという程度ですむものではありません。その人と、次代以降の運命を左右しかねない重大な影響力をもっているのです。
テロリストが原子力発電所を狙ってテロを仕掛けてきたとき、日本は決して万全な国ではありません。そのことを、私たちはもっと重大なこととして自覚すべきです。
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