弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2006年6月19日
典子44歳、いま伝えたい
著者:白井のり子、出版社:光文社
映画「典子は、今」の主人公は今44歳。結婚して、2人の子どもの母親として元気です。私は、本を読みながら、涙腺がゆるんで仕方がありませんでした。
幼いころ、いじめにあった話も出ています。それでも、ともかく前を向いて生きてきた典子さんの話に心を打たれるばかりでした。最近、ちょっと元気をなくしたな、なんて思っている人には最適の本です。きっと明日に向かって生きる元気が湧いてくると思います。
典子さんの長女は福岡で勉強中とのことです。長男はまだ小学校5年生。典子さんと子どもたちのうつった写真も紹介されています。お母さんそっくりの長女で、一瞬、どっちが典子さんか分かりませんでした。
典子さんは、話し方教室に2年間、週2回、休むことなく通ったそうです。それだけでもたいしたものですが、おかげで講演で堂々と話せるようになりました。典子さんは、 26年間勤めた熊本市役所を退職していま講演活動を始めています。私もぜひ一度、典子さんの話を聞いて、彼女から元気をもらいたいと思います。
典子さんのお母さんは看護婦。眠れないため睡眠薬を常用していたところ、サリドマイドが入っていたのです。典子さんが生まれたのは1962年1月27日。母親と赤ちゃんが対面したのは、なんと生まれてから50日目。その間に、典子さんの指は切除されていました。
子どものころの典子さんは、まったく手のかからない子どもだった。いい子にしていないと母親から見捨てられるかも・・・と子どもながら自己防衛していたのかもしれない。
この世に頼れるのは母親ひとりきりですから、その母親に嫌われないよう、いい子にふるまったのではないか・・・。そう書かれています。きっとそうなのでしょうね。
典子さんは足でなんでもできるようになります。母親は、それをほめて、ほめまくります。足で絵を描くと、うまいね、芸術家だね。そうほめてもらったそうです。
1968年。小学校に入学するのも一騒動でした。結局、小学校に入れたのですが、昼休みの時間に母親にトイレの介護に来てもらったのです。学校でのトイレは一回だけということなのです。大変なことです。それを中学、高校まで一日も欠かさず続けました。母親の努力に頭が下がります。母親は看護婦ではなく、昼休みに学校に行けるような仕事をしたのです。
典子さんは中学生のとき、友だちの心ない言葉に傷つきました。言った本人は自覚がなかったのかもしれませんが・・・。その体験から、眼が沈んだ子どもを見かけたら、優しい笑顔で、そっと「だいじょうぶ」とささやいてあげてください、と書いています。
高校生のころは編み物・縫い物が得意でした。珠算も三級を取ったのです。すごーい。
典子さんが映画に出演したのは19歳のとき、1981年のことです。母親は、家庭内の事情に立ち入らず、また家庭内を撮らないという条件をつけました。なるほど、ですね。
広島まで行くシーンがあります。熊本駅で切符を買う。どうやってか・・・。典子さんは、切符の自動販売機の前に立って通り過ぎる人を物色します。頼んだら必ず手伝ってくれる人を探すのです。もちろん勘です。自分の勘を信じるのです。一発必中でした。
私はこれを読んで、自分の胸に手をあてました。私は典子さんのおメガネにかなう自信がありません。いつもせかせかしていて、なんだか他人の世話を焼くようにはとても見えないのではないだろうか・・・、と。
映画の試写会には今の天皇夫妻も見に来ていたそうです。実は、私は残念なことにこの映画をまだ見ていません。サンフランシスコ映画祭で2度もグランプリに輝いたそうです。10年間にわたって世界の人々に勇気を与えたというので、 10年後にも受賞したのです。すごいことですよね、これって・・・。
映画は大変な反響があり、ついに典子さんの勤務先に見学者があらわれるようになりました。典子さんにとっては大迷惑だったでしょう。でも、彼女の働いている姿を一度見てみたいと私も思ったことです。ですから、見物人をあまり責める気にはなれません。一日800通、一ヶ月に3万通の手紙が届き、6畳の部屋にぎっしり積み上げられたといいます。
典子さんは21歳のとき、縁あって結婚しました。彼の両親はすぐ賛成したのに、典子さんの母親の方が反対したのです。人並みに家事ができるのか、育児ができるのか。その心配もよく分かりますよね。しかし、ちゃんと家事も育児もできたのです。そして、足だけで運転する車にも乗れるようになりました。
典子さんは、自分が障害者であるとは思っていません。これも、すごいことです。
こう書いているだけでも、なんだか生きる勇気がわいてきます。典子さんと子どもたちの笑顔が実に素敵です。
アガパンサスの青色花火のような花が咲きはじめました。梅雨空によく似合う花です。東京の日比谷公園に見かけたとき、つい声をかけてやりたくなりました。