弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年6月16日

不老不死のサイエンス

著者:三井洋司、出版社:新潮新書
 赤血球には寿命がある。120日。人間の身体に流れている血液中には、1マイクロリットルあたり、男性で420万個以上、女性で380万個以上の赤血球がある。1日につくられる赤血球は、なんと、2000億個。この赤血球には核がない。
 ところが、神経細胞は分裂しないので、ヒトが死ぬまで生き続ける。神経細胞には核がある。
 クローン生物をつくるときには、初期化の作業をする。スイッチが入る元の状態に戻す。
 ドリー(羊)の場合、初期化のために核を使用する乳腺細胞を飢餓状態に置き、いったん活動を停止した状態にさせた。そして、脱核卵子にその核を入れるときに、電気ショックと栄養を与えて、細胞核の活動を再開させた。この方法で初期化できるのは、細胞が飢餓状態になると、遺伝子が働きにくくなる。体細胞は、特定機能以外の遺伝子が働かないよう、使われない機能の遺伝子をロックしていたが、危機状態に陥ると、そんな悠長なことも言っていられなくなり、生き残るために、この際、ぜんぶ開けておこうとしたのだろう。こうして全能性をもたせた。ところが、ドリーは早く死んでしまった。その早すぎた死は、初期化が本当に完全ではなかったからではないか・・・。これまでつくられたクローン動物が完全に寿命をまっとうした例はない。マウス、ネコ、ブタ、ウシ、サル、いずれも、そうだった。なるほど、そういうことなのか・・・。
 カロリー制限は、下等生物から高等生物に至るまで、現在では、もっとも確実に寿命を延ばすことのできる方法である。カロリーを70%に制限すると、寿命が延びることが実証されている。
 100歳以上の高齢者を百寿者という。1950年には100人足らず。1970年でも300人あまりだった。ところが、1997年には8500人近くになった。その後も、急増し、2005年には2万5554人になった。
 エストロゲンというホルモンは、女性の生殖機能が続くときには必須だが、閉経後には分泌が減少する。それを補うと称して若いときの濃度を維持しようとすると、乳ガン、子宮ガンの危険が大変増える。
 スポーツ選手の特殊な能力は、遺伝で決まっていることが多いのは事実。もちろん、素質だけではなく、厳しい訓練も必要。訓練の過程で、素質があることを監督が見抜いて一流の選手へ育てていく。
 ヒトの遺伝子には、40億年の環境変化にどう対応してきたかという経験が詰まっている。いま使われていない遺伝子、必要ないと思われている遺伝子が、いつどんなときに力を発揮するかは、環境が変化してみないと分からない。つまり、種が存続するために大事なのは、今日現在すぐれていると思われている遺伝子に統一されていくことではなく、あらゆるタイプの、あらゆる特性をもった遺伝子が、今も生き続けているということ。大きな環境変化に対応できるよう、これからも否定されることなく生き続けていくことが大切にされなくてはならない。
 多様性の尊重って、ヒトが生き延びていくために絶対に必要なものなんですね。よく分かりました。

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