弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年6月16日

沢木耕太郎、出版社:新潮社
 エヴェレストに挑んだ登山家の本は何冊も読みましたが、この本もまた、すさまじい山との格闘記録です。凍傷にかかって、両手の指を全部失い、さらに鼻の頭まで欠けてしまった女性がいるなんて、とても信じられません。なぜ、そうまでして自然の脅威とたたかいながら山の頂上をめざすのでしょうか・・・。
 ヒマラヤにあるギャチュンカンという山をのぼりつめる話です。ギャチュンカンとは、百の谷が集まるところにある雪山の意。8000メートルにわずか48メートル足りない7952メートルの高さ。
 極地法あるいは包囲法と呼ばれる登り方と、アルパイン・スタイルで登るやり方の2つがある。アルパイン・スタイルでは、ベースキャンプを出たら他の助けを借りないのが前提。シェルパや他の隊員による前進キャンプの設営やルート工作などの援助を一切受けない。固定されたロープに頼ることもしない。
 山野井泰史と妻妙子が登山する費用は総額150万円。スポンサーなしの自前。
 高度になれるため、山野井は鹿屋体育大学で低酸素室に入って訓練した。スポーツ選手の高地トレーニング用につくられた施設で、密閉された空間に4000メートル、5000メートル、6000メートルといった高さと同じ希薄な空気をつくり出している。そこで昼夜を過ごし、自転車をこぎ、ランニング・マシーンの上を走る。
 アルパイン・スタイルの登山は、できるかぎりの軽量化をはかる。たとえ100グラムでも削れるのなら削ってしまう。それでも、2人の荷物は合計で300キロになった。これは他に比べると極端に少ない。
 山で着る下着は化学繊維のものにする。綿だと汗を吸って水分を閉じこめてしまう。フリースなどの化学繊維のものはできるだけ新品がいい。そうでないときには洗っておく必要がある。清潔にするためというより、古くなったり汚れたりして繊維がつぶれたり目が詰まって保温力が格段に落ちてしまうから。そうなんですかー・・・。
 高地では、血液中の酸素が少なくなるため、赤血球が増える。赤血球の増加は、血液を濃くし、流れにくくする。それを防ぐには、水分を十分にとって新陳代謝をよくしておかなくてはいけない。登りはじめたら、どれだけ水分をとれるか分からないので、飲めるときに飲んでおかなければならない。やっぱり、生命の水なんですね。
 いよいよ登りはじめるときには、ひとり5キロ未満の荷物とする。食物の重量は850グラム。クライミング用のロープは50メートルのもの1本だけ。幅7ミリのものにするか、8ミリのものにするか迷う。少しでも軽い方がよい。しかし、丈夫なことも必要だ。ところが7ミリのロープにしたところ、岩の角で切れそうになってしまった・・・。このロープ1本にまさに命がかかっているのです。
 山の上では、なぜかコーヒーではなく、だれもが紅茶を飲みます。どうしてなのか、ぜひ教えてください。この本には、珍しく熱くて濃いココアを飲む場面が出てきます。紅茶もココアも、私の大好物です。
 寒さに弱い私には、まったく考えられもしない苦闘の連続です。たいしたものなんですが・・・。オオッ、ブルブル・・・。

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