弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年5月23日

ヒルズ黙示録、検証・ライブドア

著者:大鹿靖明、出版社:朝日新聞社
 ヤツらはどんな「ワル」だったのか?オビにこう書かれています。一瞬、日本をダメにしたワルはほかにいるんじゃないの。例によって、マスコミの悪のりじゃないのかな、という反発を感じてしまいました。アエラ記者によるレポートです。
 たしかに、日本をだめにしている、ひどい若者たちです。でも、村上ファンドなんて、今も世の中を騒がし続けているのです。それで喜んでいる連中もいるわけなので、ホリエモンだけが悪いとは思えません。楽天KCの三木谷なんて、ちゃっかり澄ました顔してクレジット業界でのさばっていますし・・・。私の日常業務と関係おおありの若者です。毎日毎日、楽天KCから大量の手紙とFAXをもらっています。
 ライブドアの堀江は両親としっくりいっていなかった。宮内(税理士)は、生後まもなく両親と離れて暮らした。熊谷史人は学生結婚し、子どもの養育費稼ぎのため、深夜までバイトに追われた。このように、ライブドアの中心メンバーの多くは30から35歳の団塊ジュニアで、高度成長からバブル期にかけて人格形成をしたが、一億総中流社会とは縁が薄かった者が多い。しかも、就職時は氷河期で、就職にも苦労した。幸福や豊かさには縁が薄かった。こうした背景が、強烈なコンプレックスとして内面に沈殿し、それをバネにした敵愾心や復讐心がある日突然、やってやる、目にもの見せてやるという荒々しい行動に転じやすかった。彼らの行動は挑発的で、刺激的だった。だが、一発、二発は相手に不意打ちを食らわす強烈なパンチを繰り出せても、周囲の大人たちが警戒して身構えると、もはや小僧では歯が立たなかった。
 堀江が一人で請け負っていた時期は高い収益率だったが、人数が多くなると、品質が安定しなくなり、収益率は低下していく。2002年10月、経営がいきづまった旧ライブドアの事業を譲り受けて業態を全面的に転換した。法人向けのホームページ作成ではなく、一般の個人客相手のモデルへ転換した。
 東証マザーズ上場銘柄は、3ヶ月おきの4半期決算の開示が求められる。そこで、常に収益を稼げる金融部門をビジネスの柱にすえた。本業の不振を補って、金融部門が売上高や利益が常に右肩上がりに成長しているように演出することを余儀なくされた。堀江は、人が変わったように、世間から注目を集めることに熱中するようになった。
 堀江の住む六本木ヒルズのレジデンシャル・タワーは、家賃が月に220万円。
 堀江の原動力は、他に類をみないほど深く自分を愛することができる力にある。広報担当の乙部綾子はこう語る。堀江さんは女性を本当に愛したことがないと思う。誰かと熱烈な恋愛をしたり、失恋して傷ついたりすることができない人なんです。あの人、自分が一番好きだから。自己肯定が人一倍強い堀江は、自己愛の強さが他者をいたわる心の乏しさになって現れる。堀江は八女出身で久留米大学附設高校から東大に入り、東大を中退した。
 ホリエモンの逮捕は、2時間前にNHKがライブドア本社を家宅捜査したと報道したことから始まった。前年秋から取材を始めていたマスコミは準備していた予定原稿を2時間前に本番と間違って流してしまったのだ。前代未聞のミスだろう。まさに劇場型捜査の幕が切って落とされた。
 ライブドアの株価は一時、時価総額が8000億円にまで膨らんだ。ところが、ポータルサイト事業の利益はわずか3臆円でしかなかった。まさに虚像というしかない。
 村上ファンドの村上世彰は、灘中、灘高から一浪して東大に入った。小学4年生のとき、父親から100万円を小遣いとして渡され株を自分で運用するようにすすめられた。とんでもない父親です。世の中、おカネだけがモノをいうと身にしみた人間ほど怖いものはいないでしょう。まったくバカげています。もっともっと大切なことが世の中にはあるということを親は子に伝えるべきではないでしょうか。
 ホリエモンを高く買った経済界の大物がいました。日本経団連の奥田硯(ひろし)前会長です。堀江は東京からヘリコプターで名古屋にいる奥田に泣きつきに言っています。
 堀江は衆議院選挙に出馬するまで実は一度も投票に行ったことがなかった。しかし、
20億円つかえば20人くらいは当選できると豪語し、当選したらマスコミの力を借りて総理大臣を目ざしていたというのです。驚きです、その甘さには・・・。
 互いに刺激しあって、天まで届けと高みに登りつめる六本木ヒルズの競争は、もはや自分たちでは止められない自己肥大化の競争になりつつあった。堀江、三木谷、村上、そしてリーマン・ブラザーズ、ゴールドマン・サックス。ヒルズに巣くう男たちの自意識はもはや止まらない。みなが自分自身を「神」と思うようになっていた。ホントに恐ろしい世界です。お金は集まるところには雪ダルマがころがるようにどんどん集まっていくものなんですね。みんな勝ち馬に乗ろうとしているのでしょう。いつ負け組になってしまうかも分からない、まさに食うか食われるかの世界です。
 私は今日も、一日やっと一食しか食べられないという、ホームレス寸前の中年男性と話をしました。多いんです、そんな人が・・・。

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