弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年5月12日

みんなが殺人者ではなかった

著者:ミヒャエル・デーゲン、出版社:影書房
 ドイツで著名なユダヤ人俳優である著者が、11歳のころ、ユダヤ人の母と一緒にベルリンで奇跡的に生きのびた実話です。たんたんと情景が描かれています。信じられない話のオンパレードです。
 ユダヤ人の母と子を助けたのは、もちろん一人ではありませんが、その真先に来るのは、なんとナチ親衛隊の若者でした。キリスト教徒の家庭に育った彼は、ユダヤ人迫害の真相を知ってナチ党を脱退し、後に、危険な東部前線に追いやられて戦死してしまいます。
 次に、亡命ロシア貴族の女性、そして売春宿の老婆、もと共産党員、などなどです。ユダヤ人母子であることを知りながら、誰もナチスに密告しませんでした。それどころか、母子を助けるためにナチ団体に入り、あとに命を落とした女性もいました。ええっ、そういうこともあったの・・・。とても信じられませんでした。
 訳者あとがきによると、ナチス・ドイツになって地下に潜ったユダヤ人は1万人以上いたそうです。そのうち半数はベルリン市内とその周辺に住んでいました。生き残ったユダヤ人は1500人。ベルリンにはユダヤ人救援組織もあったそうです。さまざまな方法でユダヤ人を助けた人々は2500人以上いたことが確認されています。みんな、見つかったら確実に即処刑される危険を冒していたのです。すごい勇気です。ですから、ナチス支配下のドイツであってもナチス賛美一色に塗りつぶすわけにはいきません。
 人は何事にも慣れるものだと言われている。しかし、ぼくにはどうしても慣れることが出来なかったのが、高射砲の甲高い発射音であり、爆弾の命中音であり、大型爆弾のピューピュー鳴る音だった。それから突然はじまる静寂。その静けさのなかに「空飛ぶ要塞」の爆音が聞こえてくる。そしてあらたに始まる対空射撃、極度のヒステリー状態にまで昇じていく爆発音。そう、こうしたものにぼくはどうしてもなじめなかった。
 私もこの状態を想像することができます。身体で恐怖心を感じ、震えがとまらなかったのではないでしょうか。
 いま、イラクの人々は、自爆攻撃そしてアメリカ軍による無差別ピンポイント攻撃によって恐怖におののきながら生活していると思います。アメリカの無法なイラク侵略戦争、そしえ日本の自衛隊がそれに荷担していることを、私は絶対に許すことができません

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