弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年5月11日

考えるトヨタの現場

著者:田中正和、出版社:ビジネス社
 名古屋大学の大学院を出て、600人の部下をもつ完成車組立工場の課長職を5年間つとめた経験をふまえ、ものつくり大学の教授である著者がトヨタ方式を実践的に考察した本です。
 私がトヨタの車に乗っているから、ニッサンがルノーに乗っ取られて悔しいから、トヨタ方式を賛美するというわけでは決してありません。でも、この本には紹介するだけの内容があると思いました。
 会社あっての従業員であり、従業員あっての会社である。従業員を解雇したくないという経営方針が生きている。
 トヨタ方式における人間性尊重とは、ありのままの個人の能力を受けいれて、その能力で手の届くちょっと上の目標に挑戦していくことで、持てる能力を存分に発揮してもらうこと。ありのままの個人の能力を受けいれる。うーん、いい言葉ですよね・・・。
 難しいことは自社でやる。やさしいものを外注に出す。楽をしたいと思うのが人の性。放置しておくと、簡単な仕事だけが自社内に残り、肝心な技術は外に出してしまう。これでは厳しい市場競争で戦えなくなる。
 バブル以降、多くの会社が金もうけだけを考えるようになってしまったのが残念。いつのまにか、MBAを取得したアメリカかぶれのビジネスマンや経営コンサルタントの口車に乗せされて、目の色を変えて金もうけに走るようになってしまった。ところが、血眼になって金もうけをすればするほど、目の前からお金が逃げていくのが、この世の理である。
 本当にそうなんですよね。弁護士を長くしていて、実感として、そう思います。お金は天下のまわりもの、というのが一番の真理のように思います。
 トヨタ方式のジャスト・イン・タイムはジャスト・オン・タイム(同期生産)とは異なる。単に在庫低減だけでなく、間に合うギリギリの設備能力と、ギリギリの作業要員数で生産するのを狙うやり方なのだ。このジャスト・イン・タイムは、アメリカの大資本自動車メーカーに、少ない資金で対抗するために考えだされた方法。少ない資金で動かすためには、リードタイムを短縮し、入った材料で出ていくまでの時間を短縮し、資金繰りをよくするしかない。
 ストレスのかかる職場に働いている人は活性化し、バリバリ仕事をこなす人に育っていく。ストレスがかかっていない職場では、人の能力は衰える一方である。いやあ、まったくそうなんですよね。私も忙しいときの方が本をたくさん読めますし、また、頭が生き生きとよく働きます。ヒマだと、ボーッとしているだけなんです。もっとも、あまりヒマなことはありませんが・・・。
 安住こそが一番よくない。いつも何かに挑戦していないといけない。人生とはこんなものだと諦めてしまったら、明日から生きる意味はなくなってしまう。まだまだやることがあると思うことで、人は生きている。
 改善とは、波瀾万丈に対応しながら生きることであり、真理を見きわめることであり、何かを求め続けることである。まったく同感です。私にとって、毎日の書評とフランス語そしてモノカキは、日々の挑戦です。安住したくありません。ずっとずっと挑戦していきます。さあ、あなたもご一緒にどうぞ。

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