弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2006年5月10日
政治改革論争史
著者:臼井貞夫、出版社:第一法規
著者とは、先日、ある会合で初めてお会いしました。といっても、親しく話でもしたというのではなく、この本をぜひ読むようにすすめられたのです。まあ、せっかく先輩の書いた本なら、読んであげなくっちゃ、という思いでFAXで注文して読んでみました。
あまり期待せずに読みはじめたのですが、議院法制局からみた政界裏面史は意外に面白いものでした。まあ、それも、日本の政治が激動期だったので、それをあとづけているからかもしれません。それにしても、平成3年から6年にかけての「政治改革」推進のマスコミ・キャンペーンは異常といえるほどのものでしたね。
平成5年にいたっては、現状維持派に対して「守旧派」なる言葉を投げつけ、選挙制度改革の世論誘導までした。その積極推進派は学者とマスコミ関係者が多い。
私も、当時を思い出して、なるほど、そうだったと思います。マスコミによる小選挙区で日本は良くなると言わんばかりの大ゲサで間違ったキャンペーンに辟易もしましたが、国民は素直に誘導されてしまいました。今でも2大政党制を絶対視して、民主党なる自民党分派を天まで高くもちあげ、「左翼」をバッサリ切り捨ています。フランスで若者の解雇を容易にする法律(CPE)に反対するデモやストライキが盛りあがったとき、国会で決めた法律を街頭デモで覆すなんて民主主義に反する暴挙だ。日本のマスコミはこのように非難したのです。とんでもない民主主義観です。
議員立法の立案過程は、政党または議院から依頼があると、電話でまたは議員室を訪問して疑問点を質し、依頼の趣旨を確定し、関係法律等の調査を行い、原案を起案する。起案中に疑問が生じると、さらに依頼者側に説明をしながら、要望を聞き、細部を調整し、課段段案の最終案を確定する。そして、局内の審査を経て法律案が策定される。
著者の属する第一部第二課の7人は、平成5年2、3、4月の2ヶ月あまり、一切の休暇なく、連日の深夜勤務、このうち完全徹夜2日で懸命にとりくんだ。土・日勤務の次の月曜日には弁当の空箱で部屋の入り口が埋まるほどだった。
議院法制局は、起案するが、国会での議論の推移に任せ、積極的に憲法判断をしないという場合もある。
議院法制局には2つの役割がある。一つは、客観的な意見を述べる法制局の役割。もう一つは、依頼者の意見の補佐をする法制局の役割である。内閣法制局が内閣や閣法のため、どんな理屈でもいうのと同じ役割を果たすべきである。こんな考えがあるそうです。後者には驚きました。へ理屈つけろ、というんですよね。
平成5年は著者の人生のなかでも、とくに大変だった。とにかく忙しかった。19回の休日出勤、2回の完全徹夜をふくみ、数えきれないほどの深夜・早朝勤務。10数回にも及ぶ午前2時、3時のタクシーでの帰宅(1回、1万8,500円かかる)など。平均睡眠時間は1日4時間を割っていた。電車のなかで立ったまま眠るのが、しばしば。膝がガクンと折れて、全身が吊革にぶら下がる。とにかく寝たい、風呂にゆっくり入りたい、床屋に行きたい。これが、この年の個人的願望だった。
細川内閣の存立を支えた二大ブレーンは、閣内にあっては武村正義官房長官であり、閣外にあっては小沢一郎・新生党代表幹事であった。小沢代表幹事が連立与党各派のなかでイニシアチブをとれたのは、市川公明党書記長との固い連携があったから。
この小沢一郎が、今や民主党代表です。細川・武村・市川の3氏は、そろって政界を引退してしまったのと対照的です。
現行の小選挙区制度の生みの親として、著者は2人の議員をあげています。故後藤田正晴と小沢一郎です。2人とも、誤った政策をすれば他の政党がこれに取って代われるという常に緊張感ある政治を実現する必要があると強く主張していた。しかし、ベタナギ国会と呼ばれるほど、今や国会の議論は低調になっている。それは、世論と国会との勢力比のギャップが大きすぎることにある。
そこで、著者は、衆議院は全国比例代表制に、参議院は都道府県代表制に変えるべしと提唱しています。私も、もろ手をあげて、これに賛同します。
国民の政治離れを防ぎ、国民と国家の一体性を今後とも維持するためには、より民意を反映した選挙制度の方が国家としても繁栄するのではないかと思う。
著者の考えです。同感です。私も、国民の多様性を保障することこそ、日本が全体として発展していく前提条件だと確信しています。金子みすずの詩ではありませんが、人はいろいろいるから、いいんです。画一的ばかりでは矛盾がないので、発展もしません。いかがでしょうか?
連休が明け、ジャーマン・アイリスが花盛りです。薄い青紫色の気品のある大きな花に心が魅かれます。
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