弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2006年5月 2日
コールガール
著者:ジャネット・エンジェル、出版社:筑摩書房
イエール大学で修士、ボストン大学で人類学博士号を取得した女性が、昼間は教壇に立ちながら、夜は娼婦として生活していた。男は娼婦をどう扱うか。娼婦は客をどうみているか。女性人類学者が自らの売春体験をつづった、驚きのノンフィクション。
これはオビに書かれている言葉です。こんなことって本当にアリか・・・と思うと、スナップ写真もあって、どうやら本当のようですから、驚いてしまいます。アメリカって、まったくもって変な国ですよね。もっとも、アメリカにも東電OLが・・・と書かれていますので、私が知らないだけで、日本もあまりアメリカと変わらないのかもしれません。
コールガール組織で働く女性の少なくとも半分、もしかすると4分の3が車と運転手をあてがわれており、その大半は学生寮に住む女子学生だ。
コールガール組織の元締めをしている女性の取り分は1時間で60ドル。2時間なら 120ドル。この1時間の仕事をとるための電話の交渉は、たいてい2分そこそこですんでしまう。しかし、彼女は2分で60ドル以上の仕事をしている。客を入念にチェックして、女の子たちの盾となり、危険を承知のうえで新聞の広告欄に自分の名前と電話番号をのせている。
彼女は午前2時に営業を終える。午前2時以降にコールガールを求めて電話してくるのは、やけっぱちになった問題ありの連中だからだ。
彼女のコールガール組織は小さく、その規模の小ささから摘発を免れることができた。経営者はひとり、待機するコールガールも20人そこそこ。この程度の組織では、警察にとっては逮捕のしがいがない。
著者は、彼女のもとで仕事をつづけ、週に4、5人のお客をこなした。お客をとらない日は彼氏と会い、この2つを完璧に分けていた。お客とするのは仕事、彼氏とはセックス。 コールガールがダブルを好む一番の理由。それは、お金だ。ダブルの仕事は、客の支払いもダブルになり、それぞれ一時間分の料金を稼げる。ふところが暖かい客をうまく乗せれば、契約時間の延長も難しくない。一時間で仕事を切りあげて次に電話を待つより、延長のほうがはるかに楽だ。
コールガールが気にするのは、セックスの中身や回数ではなく、むしろ無為につぶす時間のほうだ。新規の客と連絡をとり、ほんとうに自分でいいかどうか確認し、相手が何を求めているか探りを入れる。これが結構手間だし、ストレスにもなる。だから、35歳の著者にとって、コールガールしているときは、コカインは習慣であり、日課だった。コカインのない朝など考えられなかった。
若いコールガールのなかには、高額の報酬を得ることに慣れっこになっている人がいた。彼女らは金遣いが荒い。突然、大金が稼げるようになり、良識的な判断ができなくなってしまう。八方ふさがりの困窮生活を長く続けてきた若い女が突如として大金を手にしたら、なおさらのこと。金遣いが荒くなると、よりいっそう多くの仕事をこなさなければならない。それによってこの仕事にともなう危険もいっそう増すことになる。
客は自分の思っているほどにはコールガールを支配してはいない。コールガールは客の欲望を探り、相手が自分を支配したがっていると読みとれば、それ相応に対処する。
この仕事をしているかぎり、誰かと深い仲になったときは気の重い二者択一に直面することになる。つまり、エスコート・サービスで働いていることを打ち明けるか、それとも嘘をついて押し隠すか。隠せば、いつか見つかるのではないかと恐れつつ毎日を過ごすことになる。だが、打ち明けたところで、どうなるのか。その関係が破局を迎えるまで、そう長くはかからないはず。
結局、実生活においても、客を相手にするのと同じような関係しか、男たちと結べないのではないか。退屈な妻とありきたりのセックスをすることに飽きた男たちが、性的ファンタジーを満たすという、ただそれだけが目的で求めるにすぎないのではないか・・・。 売春に携わる多くの女性がドラッグの奴隷になっている。ドラッグは女たちを仕事の奴隷とするために故意に押しつけられる。人の命がそれほど安く扱われている。依存症は恐ろしい病だ。
私も弁護士を長くしていますが、新規の客と接するときには毎回、緊張しています。ほんとうに自分でいいのか、相手が何を求めているのか探りを入れます。相性のない客だったら、あとでトラブルになり、支払った着手金の返金を求められることもあります。コールガールと弁護士は似たところがある、なんてことは言いません。でも、職業としてみたときには、どこの世界でも共通するものがあるという気がします。
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