弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年5月 2日

人間は脳で食べている

著者:伏木 亨、出版社:ちくま新書
 人間は脳で食べている。口で味わう前に、脳が情報を処理している。口は、それを確かめる作業をする程度である。
 私も本当にそうだと思います。たとえば、わが家で一人ワインを飲んでも、ちっとも美味しくありません。美味しいワインをいただくためには、まずもって講釈が必要です。私の行きつけのフランス家庭料理の店(「ア・ラ・メゾン」)では、シェフが、このワインはフランスのどこそこの地方でとれたもので、そのファミリーはどういう出身で、ワインの作り方には、こんな工夫と苦労をしている。この年はワインのあたり年だった。などと、ひとくさり、ありがたい説明を聞かされます。もちろん保存状態は家庭と違って抜群です。ボトルからデカンタに移しかえるときも、ロウソクの炎に照らしながらの作業です。目にも楽しい作業で、鮮やかなワインの赤色を見せつけられますので、いかにも美味しそうだと期待にみちみちてきます。そして、広口の大きなワイングラスにそそがれ、手にもって揺らして、まず鼻で香りをかぎ、そして舌の上にワインをころがすようにのせて味わうのです。シェフがじっと側にいて見守っていますので、うん、うん、美味しいですと言ってしまいます。すると、本当に美味しく感じられるのです。
 幼いころから食べ慣れた味わいには、安心感を与え、おいしさを感じさせる。逆に、食べ慣れない味や食材には、しばしば違和感を覚える。子どものころから刷り込まれた味や匂いは、安全で信頼できる風味として、定着し、安心できる。
 やみつきのおいしさは、脳の報酬系で発生する。快感を強く生じる食べ物には、動物や人はやみつきになる。サーカスの熊のごほうびは、角砂糖かチョコレート。報酬効果は、快感を発生する前頭前脳束と呼ばれる神経の束が興奮する状態を示している。情報がおいしさを誘導する。私たちのおいしいと感じる味の多くは、実は、他人から与えられた情報で成りたっている。ところが、眼窩前頭前野を破壊すると、新しいやみつき感を獲得することができなくなる。
 絶対的なおいしさと思われているものにも、実は集団の総意にすぎない面がある。食べたいという期待や切ない欲求は、脳内のドーパミン神経が興奮している。
 匂いの判断は、味よりもかなり正確。多くの有害物の匂いを引っかける網をもっている。匂いの方が安全性のチェックに適している。
 ラットを用いた実権によると、ラットは清酒やビールをほぼ完璧に飲み分けることができる。ラットの選ぶビールの銘柄と、人間が極限近くまで大量に飲んだときにまだおいしく飲めるビールの銘柄とがほぼ完全に一致した。
 食物を口のなかでかむ。かんでいるあいだに、食物成分がだ液とまじる。これが舌を刺激する。舌は、食べ物の成分をキャッチして、甘味、酸味、苦味、塩味、うま味、そして脂肪の刺激などの信号に変える。渋味や辛味などが含まれている場合には、これらも信号として脳に送り出す。さらに、歯触りや舌触り、粘つきやとろみなど食感も物理的な信号となる。
 舌や口の中からの信号は、脳の入り口と言える延髄孤束核に伝えられる。これは後頭部にある。延髄孤束核は、すべての信号を舌の先、舌の奥、咽頭、内臓などの順に整列させる。延髄孤束核に整列した信号は、脳の一次味覚野に別々に送られて、味覚が統合される。舌は食べ物を単純な味覚成分に分解して脳に伝え、味覚野がこれを再び組み立て直して食品の味わいに戻す。再構成された情報は、価値を判断するために扁頭体に送られる。ここで、おいしさの判断が下される。
 おいしいと判断するまでの複雑なプロセスを初めて知りました。
 好き嫌いの程度は、実際には信号の頻度で強弱が表される。好きならば信号が何度も出て、そうでなければパラパラとした頻度でしか信号は出ない。この回数が好き嫌いに比例する。そうなんですか。そういうものなんですね。脳科学って、ここまで解明してるんですね。すごいものです。
 味と匂いの信号は、独自の道をすすみながら、最後に合流する。
 小さな飽きは、同じものを食べ続けないようにするための脳の摂食抑制信号である。同じものばかりを食べていると、リスクが大きいからだ。
 マクドナルドは、ターゲットを女子高校生と女子大生にしぼった。10年、15年したら、子どもを連れて戻ってくるからだ。マクドナルドなどのファーストフードは、人間の味覚を台無しにするだけでなく、地球環境を回復不可能なまでに破壊するものでもあるというのが私の考えです。マックやケンタは人類の敵なんですよ、まじで・・・。

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