弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年5月 1日

小さな蝶たち

著者:西口親雄、出版社:八坂書房
 てふてふの話です。なんて書くと、昔の古文時代に生きる人間のように思われてしまいますね。そうです。チョウチョの話です。
 イモムシがチョウチョに変化するなんて、この世の不思議のひとつだと思いませんか。醜いアヒルの子なんてよりも、ずっとずっと不可思議なことだと私は昔から考えています。どうして、地上をはいまわるモッタリした生き物が、いつのまにか変身して、あのように身軽にヒラヒラと華麗に空を飛びまわれるようになったのでしょうか・・・。
 私は、その不思議さをもとにした絵本をつくったことがあります。もっとも絵を描いたのは私ではありません。子どもがセミやトンボに変身して空を飛びまわるというお話で、我ながらうまいストーリーだと思ったのですが、残念なことにサッパリ売れませんでした。そのおかげか、私の絵本を出した出版社は、つい最近、倒産してしまいました。東京地裁から破産宣告の通知が送られてきたのには驚いてしまいました。
 蝶の幼虫、そうイモムシのことです、の基本構造は、筒状の胴体と、足と、鋭い歯をもった口からできている。動く消化管である。蝶の蝶中の関心事は、ただひとつ。餌をしっかり食べて、よく成長し、健康優良児になること。注意事項は、野鳥に食べられて、命を落とすことのないように用心すること。だから、幼虫は野鳥が寄ってこないようなグロテスクな姿をしている。
 うーん、そうだったんですか・・・。そうなんですね・・・。でも、でも、それにしても、あのイモムシが変身して空を飛ぶというのは、どうしても結びつきません。
 なぜ、幼虫で冬を越すのか。それは、春、できるだけ早く、若葉を食べたいから。越冬まえの脱皮は、冬の寒さに耐えられるよう、水分を少なく、脂肪分を多くするという体質改造のため。
 蛾は、もともと森の中で生活していた生きもの。日中に飛行する蛾は、昼飛性の蛾と呼ばれている。ベニモンマダラは蛾群と蝶群のあいだに位置する。前羽と後羽との間には連結器がある。どうして蛾は前羽と後羽を連結器でつないでいるのか。それは蛾が、飛び方がへただから。 セセリチョウは、蛾から蝶に変身した最初の、偉大な生きものだ。
 著者はチョウチョが何を食べているのかを手がかりとして、謎の解明を試みています。なるほど、と思わせる推理がなされていて感嘆します。たとえば、ササは中国中部に自生する背の低い竹が日本に進出し、日本の風土に適応して小型化し、草木的となった日本特産の植物だそうです。その笹を唯一の食餌にしている蝶がいるというのです。ヒカゲチョウです。ところが、クロヒカゲという、ヒカゲチョウによく似た蝶がいます。いくらか小型で、飛び方ははるかに敏捷。だから、ヒカゲチョウよりずっと進化しているので、ヒカゲチョウはクロヒカゲを恐れているというのです。
 いくつもの蝶の見事な写真があります。ホントホント、どうして蝶はこんなにも美しいのでしょうね。どこの誰が、こんなデザインを考えたのでしょうか。信じられませんよね。
 ギフチョウもヒメギクチョウは、色こそ多少違いますが、形はよく似ています。でも、新しい種が誕生するには、数百万年以上の年月が必要だそうです。ちょっとした突然異変が固定するのに、そんなにもかかるのですね。でも、犬は、もっと短い期間に、いろんな種がうまれたのではありませんか。それとも、あれは種の違いではないのでしょうか。
 春になり、わが家の庭にも蝶が飛びまわるようになってきました。ヒラヒラヒラヒラ、優雅な飛び方をするチョウを眺めていると、見ている方まで心が軽くなってきます。
 いま、アイリスが花盛りです。華麗な青色の花が咲くジャーマンアイリスもやがて咲いてくれそうです。

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