弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年4月21日

なぜ、いま代用監獄か

著者:小池振一郎、出版社:岩波ブックレット
 著者はテレビのワイドショーのコメンテーターに長く出演していました。「ワイドショーに弁護士が出演する理由」(平凡社新書)と言う本があります。司法試験の受験勉強を一緒にした仲間です。コメンテーターとして一言いうのもなかなか難しいと語っていました。ときの政府をあまりコテンパンにやっつけてしまうと、次から座敷がかかってこないというのです。さしずめ、今だったら小泉首相を弱者いじめの極悪人だと決めつけるような言い方をすると、次には間違いなくお呼びはかからなくなるのでしょうね。
 著者は世界の刑事拘禁施設について調べています。日本の留置場がどんなに警察にとって都合のよいものか、取調べの便宜のために正義が犠牲にされていることを強調しています。私も、自白している被疑者が面倒みてもらっていることを何回となく体験しました。否認している被疑者とは雲泥の差があります。
 たとえば、煙草、そして差し入れの食事です。これまで愛人と面会でき、しかも、密室になることが許されたケースも報告されています。その面会のときの写真まであるというのですから、信じられません。
 オウム事件の主任弁護人だった安田好弘弁護士は10ヶ月近くも拘置所に勾留されてしまいました。安田弁護士のこの逮捕は、まさに不当逮捕の典型だと思いますが、体験談のなかに次のようなくだりがあり、驚きました。
 留置場ではもちろん、拘置所の中にあってもフセンを使うこともできない。カラーマーカーもない。ホチキスもない。えーっ、本当でしょうか・・・。私は、記録を読むとき、カラーマーカーをつかいながら、いくつもの色のフセンをつけていくようにしています。後で読み返すときの便宜のためです。もし、こんな制限が本当にあるのなら、まったくもって不当な制限だと思います。
 警察の留置場の規則は厳しい。しかし、これは破られている。消灯時間の夜9時までに房に戻しておくことになっている。ところが、取調べのために、消灯時間を2時間も過ぎた夜11時に戻すことがある。それでも、その時間は夜9時に戻ったことになっている。被疑者は時計をもたされていないし、留置場や取調室には時計はない。だから、被疑者が何時まで取り調べられたか客観的には分からない。うーん、そうなんですね・・・。
 警察の留置場に被疑者がいる限り、取調べ官の便宜が最優先してしまうのはあたりまえのことです。ここは、どうしても留置場とは別の拘留場所を確保すべきなのです。
 わずか63頁の薄いパンフレットですが、今まさに時宜にかなった内容になっています。

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