弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2006年4月10日
レイラ・ザーナ
著者:中川喜与志、出版社:新泉社
クルド人女性で初めて国会議員に30歳の若さで当選したレイラ・ザーナの闘いを紹介した本です。私は、そういう人がいることをこの本で初めて知りました。彼女が獄中にいることがトルコのEU加盟の障害となって、10年後にようやく釈放されたということです。そんなこと、ちっとも知りませんでした。
クルド人は、独自の言語と歴史、文化、慣習を持った「民族」である。推定総人口3000万人は、中東世界ではアラブ人、トルコ人、ペルシア人に次ぐ第4の民族である。
レイラ・ザーナは、1991年、トルコ大国民議会(国会)総選挙にトルコ東部のクルド人居住地から立候補し、84%の支持を集めて30歳で当選した。そして、議員就任式にレイラはクルド人民族の伝統色をまとい、トルコ語で議員宣誓を行ったあと、クルド語で、「私は民主主義の枠組みの中で、クルド人とトルコ人が平和裏に生きるべく闘う」「クルド人とトルコ人の兄弟愛に万歳」と述べた。
レイラは議員不逮捕特権を奪われ、1994年に投獄され、以後10年間にわたって獄窓に閉じこめられた。2004年6月に釈放されたとき、レイラは43歳になっていた。
レイラ・ザーナたちの釈放なくしてEU加盟交渉は難しいというEU側の反発があった。そして、レイラが釈放される直前に、トルコ国営放送はクルド語放送を開始した。週2回、1回35分だった。これは、その後、週5回に増えている。
レイラとは、アラビア語で夜の暗黒という意味。それが今では、レイラという名前はクルド人にとって、娘がほしいということを表す幸運の言葉として頭に浮かぶようになっている。
レイラの夫は市長だった。夫と結婚したとき、レイラは14歳。クルド人の娘は15から16歳で結婚するのは普通のこと。
レイラは総選挙のとき、民衆に向かって仕事や住まいなどの経済的公約は一切しなかった。ただ、クルド人の人間としての誇りを守り、高めるために働くと公約した。
「今までの政治家は、伝統的に、個人や団体にとっての利益を用いて、民衆をだますという基本でやってきた。私は、これの反対に立ち向かう。私たちの目的は民衆の団結を保証すること」
レイラ・ザーナの当選によって、食卓での地位は牛より後ろ(女性の地位は牛より低い、という意味)であったクルド人女性が変わった。
対するトルコ首相も同じ女性。2人の子どもの母親であり、経済学教授であり、アメリカ国籍を有している。
「トルコでは、すべてがトルコ人である。トルコ人でない者たちに唯一の権利がある。それは、沈黙することである」
クルド人なるものは存在しない。クルド人とは山岳トルコ人のことである。国民はトルコ語を話す。このようにトルコでは公式に言われてきたのです。
トルコには「灰色の狼」というテロ実行部隊があり、いくつもの暗殺に関わっている。このテロ組織のパリでの暗躍を描いたのが、先に紹介したパリの暗黒街を描いた小説「狼の帝国」です。
国民1人あたりの所得が世界で50番目のトルコは、軍事費では世界で6番目か7番目。1993年度のトルコは、世界最大の武器輸入国。1994年度の予算の半分近く、890兆リラの総予算のうちの401兆リラが軍事支出に充てられている。
ヨーロッパ議会の3人の有名な女性議員がレイラ・ザーナの釈放を要求したところ、トルコの国民大臣は彼女らのことを売春婦だと言い放った。
平和主義者として有名だったクルド人弁護士が1994年に2人も暗殺されている。
クルド人の民族色である赤・緑・黄色を組み合わせることは禁止されている。だから信号も赤・緑・黄色ではなく、赤・青・黄色である。えーっ、そうなの・・・と驚いてしまいました。ところで、今のイラク大統領のタラバーニはクルド人です。
クルド人が政党を立ち上げると、憲法裁判所が判決で政党を閉鎖し、党の資産は国家が没収する。しかし、党の閉鎖命令に備えて新たな政党を設立する。このくり返しをずっとやってきた。
私はマルアス・ギュネイというクルド人映画監督のつくった「路」という映画を東京で見たことがあります。1982年の作品ですが、刑務所の中から采配をふるってつくられた映画で、トルコ国内では上映禁止となっていました。大変な国だと思ったことを覚えています。民族のアイデンティティーを守るための闘いというのは人間の尊厳をかけた闘いなのだと思い知らされました。
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