弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年3月31日

日本の戦争力

著者:小川和久、出版社:アスコム
 著者は日米安保条約を肯定していますが、私はアメリカにあまりにも従属的なこの条約は一日も早く廃棄し、両国が対等な立場に立った友好条約を結び直すべきだと考えています。この考えはベトナム反戦を叫んでいた学生時代から変わりません。
 日本が意識的に主体的に日米同盟をコントロールしてきたことはなく、今日の経済的な繁栄は、あくまで結果論にすぎない。
 この点も、私は著者と意見が異なります。平和憲法をもっていたために、日本は内外ともに安心して非軍事的な経済成長に専念することができたのです。それは単なる結果論では決してありません。
 日本の防衛費は年間5兆円弱。これはダントツのアメリカに次ぐロシア、イギリスとあまり変わらず、中国、フランスと並んで世界有数の額。しかし、日本の防衛費の4割以上は人件費で占められている。これを除くと、せいぜい「中ぐらいの国」の軍事力でしかない。
 海上自衛隊は対潜水艦戦では世界のトップクラスだけど、それ以外の能力は備わっていないに等しい。航空自衛隊も防空戦闘能力は世界トップクラスの実力をもっている。
 自衛隊はパワー・プロジェクション(戦力投射)能力がまったく欠落している。
 アメリカの同盟国のうち、アメリカと軍事的に対等な国など存在しない。すべて片務契約であり、不平等な同盟である。
 日本はペンタゴン最大のオイルターミナルである。神奈川県鶴見にアメリカ軍第2位の燃料備蓄量がある。佐世保は第3位。弾薬についても同じく、アメリカ軍が広島に置いている弾薬12万トンは、日本の陸海空自衛隊のもっている量よりも多い。
 アメリカ海軍の艦艇に母港を提供している国は日本だけ。世界最大最強の艦隊であるアメリカ第七艦隊は、日本がその全存在を支えている。
 日本は1991年の湾岸戦争のとき、130億ドル(1兆6500億円)を拠出した。これは湾岸戦争の戦費610億ドルの2割以上。しかし、クウェートから感謝されることはなかった。
 それだけではない。アメリカ軍を支える戦略的な根拠地として、日本は軍事面でも世界最大の貢献をした。ロジスティックスのことだ。たとえば、湾岸地域に展開した57万のアメリカ軍の燃料と弾薬の8割以上は、日本から運ばれたものだった。
 2003年3月に始まったイラク戦争においても、日本はアメリカ軍の戦略的根拠地として大いに後方支援の役割を果たした。
 アメリカは、韓国には「じゃあ、出ていくぞ」と脅し文句が言える。しかし、日本には言えない。日本に代わって戦略的根拠地を提供できる同盟国なんて、世界のどこにもいない。万一、日本が日米安保条約を解消する方向で動いて、アメリカ軍基地がなくなったら、アメリカは世界のリーダーの地位から転落してしまう。それほどまで、日米同盟は重い。
 日本は在日アメリカ軍の駐留経費を75%負担している。あっ、だからアメリカ軍のグァム移転にともなって日本政府は75%の支払いを求められているのですね。
 日本はアメリカ軍のために毎年6000億円を負担している。これは、一つの県の予算くらいの規模だ。
 日本は平和憲法の下で平和主義だから、対テロ戦争をたたかわなければいけない。ただし、対テロ特殊部隊だけを整備・増強するのは物事の順序をわきまえていない。まず軍事力をつかう、ということではない。私も、この点は賛成します。
 著者は、アメリカのイラク占領は、2003年4月のバクダッド陥落の時点から間違っていたと断言しています。この点も、まったく同感です。
 自衛隊にパワー・プロジェクション能力がないというのは、言われてみればなるほどそうだろうなと私も思います。つまり、日本は、戦後、そんな海外侵略に走るなんていうことは絶対にない、と国の内外に宣言したのです。今もますます大切になっている憲法9条です。なくすなんて、とんでもありません。

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