弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2006年3月30日
眼の誕生
著者:アンドリュー・パーカー、出版社:草思社
本書は目から鱗の物語である。しかも、二重の意味で。訳者は、あとがきにこう書いてます。私も、なるほどそうだと得心がいきました。
カンブリア紀のはじまった5億4300万年からの500万年間に、節足動物を主とした多様な動物が爆発的に登場した。これはカンブリア紀の爆発と呼びならわされている。
その原因は何なのか、この本は見事に解き明かしています。
それは何か。そうです。眼なのです。
生物が太陽光線を視覚信号として本格的に利用しはじめたこと、眼を獲得したことによって、食う、食われるという関係が激化し、身体を装甲で固める必要性がうまれた。眼の獲得が文字どおりの鱗つまり装甲を生んだ。
これが光スイッチ説です。読みすすめていくと、本当に賛同できる考えです。まだ40歳にならないイギリスの若手学者の書いたものですが、なるほどとうなずき、感嘆しました。
ウサギの眼は立体視できない。食べられる側にあるウサギは捕食者の餌食にならないことが先決である。周囲にさえぎるもののない、周囲360度が見渡せる場所が理想的。ウサギの眼は全水平方向を見渡せる位置についている。
これに対して、補食動物は獲物との距離を正確に測れるかどうかが、食えるか飢えるかを左右する。生きている動物を食べるためには、狩りをしなければならない。狩りには、距離の見積もりが欠かせない。
トンボの複眼は1000個ほどの個眼から成っているが、すべての個眼が同じというわけではない。複眼には個眼面が他より大きい部分が1、2ヶ所ある。そこが照準器にあたる部分だ。これは、眼の最上流に位置しており、空中を見渡し、上空を飛ぶ獲物を見つけるのにつかわれる。獲物となる虫が見つかると、トンボはその虫が飛んでいる高度まで上昇し、複眼の前方に位置する「照準器」にとらえて追跡する。
カンブリア紀が始まると、捕食者たちはまず、獲物に照準を合わせるという行動に出た。眼という照準器で獲物をとらえていた。視覚とは、光を利用して物体を認知して分類する能力、つまり見る能力である。
複眼が形成されると、この世で初めて眼を享受した動物が誕生し、世に解き放たれた。地球史上初めて動物が開眼した。眼の出現とともに、動物の外観が突如として重要になった。開眼により、世界は一変する。あらゆる動物が、視覚に適応するための進化を迫られた。もたもたしていれば食われてしまうし、獲物におくれをとってしまう。
このように、カンブリア紀の爆発は、視覚が突如として進化したことでひきおこされた。
混乱状態が続いていたのは、カンブリア紀初頭の、せいぜい500万年間だけだった。すべての生物が視覚に適応し終えて「爆発」がおさまると、混乱にかわって安定が訪れた。化石によると、眼が存在したのは、5億9300万年前のことで、それ以前ではなかった。眼が進化するには、100万年もあれば十分だった。基本的な光受容は像を結ばないので、眼とは呼べない。眼が誕生するのは、光受容細胞が本格化して「網膜」を形成したとき、である。
動物進化におけるビッグバンというべきカンブリア紀の爆発と呼ばれる出来事をもたらした起爆剤は、いったい何だったのか。それを刻明に明らかにした本です。私はその面白さに引きずりこまれ、電車のなかで我を忘れて一心に読みふけりました。
アノマロカリスはまったく奇怪な生き物です。奇妙奇天烈としか言いようがありません。380頁もある大部な本ですが、頭休めにもなる面白い本でした。
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