弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年3月15日

白バラの祈り

著者:フレート・グライナースドルファー、出版社:未来社
 いま上映中の映画「白バラの祈り」の完全版シナリオが本になっています。
 1943年2月18日、ミュンヘン大学でゾフィーは反ナチのビラをまきました。それが見つかり、ゲシュタポに連行され、裁判にかけられます。なんと裁判で死刑が宣告され、4日後にはギロチンにかけられてしまいました。ビラを大学にまいた、それだけで、たった4日間の裁判によってギロチン刑とは・・・。とても信じられません。
 この本は、旧東ドイツの秘密警察の文書保管所にあったゾフィーの尋問調書によって取調べ状況を刻明に再現したという点に価値があります。
 ゾフィーは普通の女子大生であったようです。ヒトラーユーゲントのメンバーにもなっています。ゾフィーは婚約しており、彼はドイツ軍大尉で、東部戦線にいました。ゾフィーの弟もドイツ軍兵士です。
 ゾフィーは、ナチが精神障害をもつ子どもたちを毒ガスで処理したことを知って、大変なショックを受けました。それを尋問官に問いただすと、彼らには生きる価値がないという答えが返ってきました。なんということでしょうか・・・。尋問官は、ユダヤ人殺害も子ども殺しも、すべて嘘だと言いはります。
 そして、ゾフィーに対して、兄を信頼して単に手伝っただけじゃないのか、と甘い声でささやきかけます。助命しようという良心があったのでしょう。でも、ゾフィーは、きっぱり断わりました。それは真実ではないと言い切ってしまいます。
 ゾフィーの国選弁護人は、被告人であるゾフィーと目を合わせようともしません。彼の言葉は次のとおりです。
 長官、私はなぜ人間にこのようなことができるのか、まったく理解できない。私は兄の被告ハンス・ショルに対して適正な刑を求める。妹の被告ゾフィー・ショルには、やや穏やかな刑を望む。彼女は、まだ若い娘だから。
 ゾフィーは、法廷で堂々と自分の信念を貫きます。裁判官に向けた彼女の言葉は次のようなものです。
 私がいま立っている場所に、もうすぐあなたが立つことになるでしょう。
 この言葉を聞いていた傍聴席の人は怒りというより、困惑と不安にさいなまれていました。直ちに判決が言い渡されます。死刑の宣告です。ハンス・ショルが叫びます。
 今日はぼくたちが処刑されるが、明日はおまえたちの番だ。
 ゾフィーの方は、恐怖政治は、もうすぐ終わりよ、と言いました。
 法廷内にいた司法実習生が、すぐに恩赦の嘆願書を提出するよう両親にすすめます。しかし、直ちに却下されるのです。
 最後の面会のときの父娘の会話が紹介されています。父は、すべては正しいことだった。おまえたちを誇りに思っているよと呼びかけます。ゾフィーは、私たちは全責任を引き受けたわ、と答えました。もう、おまえは二度とうちには帰ってこないのね、という母に対して、ゾフィーは、すぐに天国で会えるわよ、と答えたのです。
 ゾフィーは、1943年2月22日の午後5時、ギロチンにかけられました。
 このとき死刑になったのは、7人です。そのほかにも、13人が懲役刑に処せられています。
 ゾフィーの死後、さらに戦争は2年以上も続き、何百万人もの人々が殺されていきました。でも、決っして、ゾフィーたちの行動が無駄で終わったというわけではありません。ドイツでは、このように反ナチのために生命をかけて闘った人々を思い出させる映画がくり返し製作・上映されます。日本ではそれがほとんどないのが、本当に残念でなりません。

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