弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年2月13日

集団訴訟、セクハラと闘った女たち

著者:クララ・ビンガム、出版社:竹書房文庫
 ハリウッド映画「スタンドアップ」の原作です。私は中洲の小さな映画館でみました。観客は私をふくめて6人しかいませんでした。アメリカはミネソタ州にある鉱山で働く女性たちの話です。彼女たちは、同じ職場の男性労働者から次から次にすさまじく、えげつない嫌がらせを受けます。映画には映像の限界があります。この本によると、もっともっととんでもなくひどいハラスメントを絶え間なく受け続けます。その詳細は、とてもここに書くことはできません。もちろん、この本には書かれていますが・・・。書くこと自体が男である私にも苦痛ですし、嫌なのです。男たちは、彼女らから自分たちの仕事を奪われることを心配しており、現場から追い出す意図もあったようです。
 女性たちも、ついにこれはセクハラだと考えて、裁判に訴えることにしました。しかし、それからがまた凄まじいのです。弁護士選びも大変でした。そして、公開の法廷で、さらにセクハラを受けてしまうのです。
 アメリカには原告側に立って訴えることを専門にする弁護士がいて、全米組織もあります。雇用差別に苦しむ人々からの訴えを専門とする弁護士もいるのです。
 雇用差別に苦しむ人々からの訴えを専門とするポール・スプレンガーは訴訟を引き受けるためには3つの条件があるとしていた。第1に、それが集団訴訟になる可能性があること。第2に、それ相当の金銭的な報酬が期待できること。第3に、原告が信頼できる人物であること。そして、その訴訟がいくらくらいの価値をもつのか、はっきりした期待をもっていること。
 なにより重要なのは、彼女たちがどんな原告になるかということだ。裁判の勝ち負けは、原告にどれほど訴える力があるかで多くが決まる。信頼できるか。共感を得られるか。欲をかいていないか。一緒に仕事をしやすいか。訴えが強力でも、陪審や判事の共感を得にくい者もいれば、すぐに動揺して自滅してしまう者もいる。
 裁判費用は弁護士が負担する。その代わり賠償金の33%を弁護士がもらう。そのほか、依頼者は毎月50ドルを24ヶ月間にわたって支払う。これが弁護士報酬契約だった。集団訴訟は弁護士費用を払えない人々の権利を守るものになっていた。
 会社側は、集団訴訟にならないよう、同じ職場に働く女性労働者から、職場にはセクハラなんてないという署名をとってまわり、ほとんどが署名に応じた。彼女たちは職を失いたくなかったからだ。
 会社側の雇った女性弁護士は有能だった。アメリカには宣誓供述という手続がある。裁判前に、相手方弁護士から尋問されるのだ。この本によると、5時間とか9時間という長時間、しつこい嫌がらせのような尋問がなされたという。
 セクハラを受けて悩んでいるといっても、男たちと同じくらい粗野で下品であり、感情的にも精神的にも不安定だった。男たちの違法な嫌がらせによってではなく、自らの過ちと弱さによる犠牲なのだということを「明らか」にすべく徹底的に追及された。この追求によって依頼者はひどく落ちこんだ。心の底から怖がった。
 そのうえ、さらに法廷で追いうちがかけられた。反対尋問で、性生活や、子ども時代に虐待やネグレクトを受けたことがあるか、夫から不快な性行為を求められたか、精液の臭いを嫌だとは思っていなかったのではないか、などなど・・・。女性を打ちのめし、いたたまれなくさせる尋問が続き、裁判官がそれを許した。
 しかし、幸いにして、その裁判官の下したひどい判決は連邦裁判所によって破棄された。
 ところが、次に開かれた陪審法廷は男性が大半、それも肉体労働者ばかり。これに不安を感じ、原告らは判決ではなく、和解に応じるという決断を下した。
 映画はハッピーエンドで終わりますが、この本は必ずしもハッピーエンドという感じではありません。この話は、驚くべきことに、ごく最近のアメリカで起き、裁判になった実話なのです。裁判が起きたのは1988年で、終わったのは1998年なのです。
 いやあ、アメリカって、本当にひどい国なんだなー・・・、と思いつつ、しかし、それが映画になるっていうのもすごいことだと思い直しました。みなさん、ぜひ映画をみて、この本を読んでみて下さい。アメリカの一断面が良きにつけ、悪しきにつけ、よく分かりますよ。

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