弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年2月28日

標的は11人

著者:ジョージ・ジョナス、出版社:新潮文庫
 映画「ミュンヘン」の参考図書だとオビにかかれています。1972年9月5日、ミュンヘンで開かれていたオリンピックの選手村に8人のアラブ人テロリストがしのびこみ、イスラエル選手団を襲いました。11人の選手と役員が殺されたのです。それからイスラエル政府の反撃が始まります。モサドは暗殺チームを結成し、同数の11人をターゲットとします。イスラエルのメイア首相が暗殺チームにじきじきに特命を下したという場面が描かれていますが、本当のことでしょうか・・・。
 暗殺チームに対する訓練の様子が紹介されています。
 殺しあいの撃ち方は、まず相手の用いる拳銃の種類を学ぶこと。弾のよけ方を知っておくには、相手のもつ拳銃の種類をとっさに判断することが肝要だ。どんな拳銃にも癖がある。
 特殊工作では、小火器の射程距離や貫通力より命中の精度、発射時の低音、携行する際の秘匿性が重要。22口径の半自動小型拳銃ベレッタ。これこそが最高の武器だ。でっかいやつは役に立たない。
 いったん銃を抜いたら、必ず撃て。撃つ意思がなければ、絶対に銃を抜くな。そして、引き金をひくときは、いつも2度ひけ。いちど狙いをつけて発射したあと、少しでも間をおくと、手を2度と同じ位置に安定させることはできない。もし2度とも的をはずしたら、狙いなおして、続けざまにもう2発、撃て。いいか、引き金は常に2度ひくのだ。
 人間を撃ち殺すのは難しい。百年かけて訓練しても、できない人にはできない。人間を撃つときには、頭や脚ではなく、胴体という大きな的を選ばなければならない。もちろん、続けて2発。
 偽造文書を見破るコツは心理学、読心術にある。所持者の目色にあらわれる微妙な変化を読みとれるかどうかだ。どんなに精巧な偽造証明書を所持していても、もっている者がそれに100%の自信をもたなければ、きっと簡単に見破られる。偽造証明書は所持する者の気構えひとつで生きもし、死にもする。盗んだ他人の運転免許証だって、心底から自分のものだと信ずれば、堂々とまかりとおる。
 これって、私たちの日常生活でも似たようなものを体験することがありますよね。思いこみによって、本当は他人のものがバレないということがあります。
 工作中、たえず周辺の変化に神経をくばれ。眼球をレーダーのように働かせろ。一つのものを数秒間以上、凝視してはならない。そうしていると、いつしかめったに笑わなくなってしまう。異常といえるほど表情のない顔となる。顔面の筋肉を動かしたのでは、たえず眼球を働かせるわけにはいかなくなるから。
 暗殺チームのメンバーは、10人並みの性格でいい。しかし、すべてに几帳面、信頼するに足る冷静な人物でなければならない。むしろヒーロー志向は嫌われる。信頼されない。さらに敵対感情の強すぎる者もご遠慮願う。熱狂的な愛国者でなければならないが、狂信性があってはいけない。むしろ抜け目ない人間である必要がある。大胆不敵であると同時に、クールさが求められる。
 テロリストは、飛行機に乗ったとき、通路際の座席が合理的のはずなのに、なぜか窓際に坐りたがる。
 モサドの暗殺チームは、与えられたターゲット(標的)の11人を次々に1人ずつ殺していきます。少人数でも、資金とわずかな決断力さえあれば、人をわけもなく見つけ出して殺せる、というのです。
 しかし、報復の連鎖は今日なお、とどまるところを知りません。実のところ、アラブのテロリストが殺しを始めたというのではありません。どこかでこの果てしない殺しあいを止めなくてはいけない。そのことを痛感させる本でもあります。でも、日本政府はいつだってアメリカの言いなりです。日本人の我々も黙っていたら殺し合いの連鎖に手を貸しているだけだということを、もっと自覚しなければいけません。

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