弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年2月27日

官邸主導

著者:清水真人、出版社:日本経済新聞社
 自民党をぶっつぶすと叫び、多くの国民の喝采をあびて登場した小泉純一郎は、自民党の支配構造をしっかり温存したうえで、日本社会を根底からぶっつぶしつつあると私は考えています。かつての総中流意識は今は昔の物語になってしまい、今では一部の富める者はますます金持ちになり、多くの貧しい者は日々に貧しくみじめになりつつあって、日本社会が大きく揺らいでいます。このまますすめば、暴力が横行するアメリカと同じで、私たちの生命も健康も危険にさらされ、ゆとりとうるおいのない日本社会に早晩なるのは必至です。マスコミもホリエモン逮捕以来、少しはその点を報道していますが、根本的な問題提起はごくわずかなままです。
 この本は、まず小泉純一郎が登場するまでの激動する政界のあゆみをたどっています。村山富市、橋本龍太郎、小渕恵三そして森喜朗と、歴代首相は相次いで失政を重ね、国民が離反していきました。そこへ、「変人」首相が割りこんできたわけです。2005年9月の総選挙は、マスコミを抱きこんで、ひどいものでした。
 竹中平蔵は小泉内閣メルマガで諮問会議の舞台まわしを次のように紹介している。
 1回2時間の諮問会議のために、スタッフとの打合せ数時間、提言をする民間メンバーとの打合せ数時間、そして首相・官房長官との打合せが1時間。これに根まわしの時間を加えると、合計して1回あたり20時間をこえることが少なくない。
 要するに、諮問会議というのも、小泉の手のひらのうえに乗っているということを自白しているようなものです。
 小泉なくして竹中なし。竹中なくして小泉なし。それが真実だ。
 内閣総理大臣の権力とは、とことん突きつめると、まず第一に衆院議員全員のクビを一瞬にして切ることができる衆院の解散権。同時に、閣僚や党首脳の人事権は解散権の行使を円滑にするため、表裏一体のものとして欠かせない。結局のところ、この二つをどう有効に活用するかに集約される。
 小泉は、政権担当以来、一貫して党三役や閣僚の人事を派閥の領袖の推薦を受けつけず、相談もせず、断片的な情報もれさえ極度に嫌って、たった一人で決めてきた。
 人事権のもっとも効果的な使い方は、この役職に就くことができたのは、誰のおかげなのかを明白にすること。小泉は、それが総理総裁の専権事項であると徹底して思い知らせる戦略を貫徹し、派閥を完全にカヤの外に置いて、ガタガタになるまで弱体化させた。
 小泉政権下では、どの党三役も閣僚も100%、小泉のおかげでポストに就けたことは明確であり、党執行部と閣内の求心力は抜群に高まった。小泉は、いざ政局有事の造反の可能性を極小化してきた。
 小泉が自民党幹事長を求めたのは、総裁に代わって党内を押さえこむ剛腕ではなかった。解散などの政局有事に裏切るおそれのない総裁への忠誠心こそが第一であり、忠実に小泉の方針を実行する能力に尽きている。
 怖い政治家です。国民が「強い」政治家を待望すると、このようなとんでもない政治家が出現し、日本社会をズダズダに切り刻んで、これまで国民のなかにあった、なんとなく、ほんわかとした連帯心がなくなってしまい、ギスギスして夜道を女も男も安心して歩けない日本社会になってしまうのです。
 400頁をこす、ぎっしりと重たい内容の詰まった本でした。

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